:名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 00:16:07 ID:gvq

 ドンッ。

「なんやにーちゃん。いたいんだけど」

彡(゚)(゚)「うっさいわ。じゃかましい」

「なんやとオラァ!!」

 ドガッ、バキッ、ゴフッ。

「三人に勝てるわけないだろ。あほかこいつ」

彡(゚)(゚)「わ、ワイはすごいんやぞ!!」

「うるせー死に底ない!!」

 ドガッ、バキッ。

彡(゚)(゚)「グエー死んだンゴ……」

「二度とツラ見せんじゃねぇぞクソアマ!!」

 ザッ、ザッ、ザッ……。

彡(゚)(゚)「あ、あほくさ……」


:名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 00:16:07 ID:gvq

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    :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 00:27:28 ID:gvq

     時は戦後ッ!!
     先の大戦の記憶も色濃く残る19××年。
     ここに一人の若者がいたッ!!

    彡(゚)(゚)「酒……酒をクレメンス……」

     おんj国は戦争に負けたッ!!
     その結果ビップ合衆国となんj共和国連邦によって東西に分断されたのだッ!!
     西おんjと東おんj――ここトーキョーは合衆国によって占領されていたのだ!!

    彡(゚)(゚)「ほな……また……」

     この若者は未だ混乱残るトーキョーでその日暮らしをしていた!!
     仕事終わり、少ない給料で安酒を煽り、酔っ払ってゴロツキにのされたのである。
     


    :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 00:40:29 ID:oxR

    やきうが如く


    :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 00:40:58 ID:gvq

    彡(゚)(゚)「ワイは……ワイはすごいんや……」

     男は過去という重荷を引きずっていた!!

    彡(゚)(゚)「ワイは……ワイは」

     男は思い出していた……リングでの記憶をッ!!
     真っ白なキャンバス。飛び交う怒号、ヤジの嵐!!
     ロープで仕切られた正方形、グローブをはめ、その上に立つ男が二人ッ!!

    彡(゚)(゚)「ワイは……王者になるはずだったんや……」

     拳と拳の応酬!! そう、ボクシングッ!!
     男には輝かしい未来が約束されていた!!

    彡(゚)(゚)「ワイの……ワイの右ストレート……」

     西おんj王者を決める一戦!! その先には世界が待っていた!!

    彡(゚)(゚)「右が……決まったはずだったんや……」

     男の右が決まろうとしていた……しかし!!
     挑戦者である男の拳を、王者はかわしたッ!!

    彡(゚)(゚)「カウンターやった……」

     カウンター……!! 男は吹き飛び、そして起き上がることはなかった!!


    :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 00:52:40 ID:gvq

    彡(゚)(゚)「あの一戦で、ワイは燃え尽きた……」

     未来を期待されていた若者には残酷過ぎる結末だった!!

    彡(゚)(゚)「なんで……ワイがこんな目に……」

     網膜剥離……!!
     男はその目に傷を抱えていたッ!!
     蓄積されたダメージが、あの一戦で一気に爆発してしまったのだ!!
     異変を感じ、医者へ行く……下された決断は網膜剥離!!
     不幸中の幸いで傷はまだ浅かった!!
     しかし……それは即ち引退勧告と同じだったッ!!

    彡(゚)(゚)「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )」

     燃え尽きた……灰のように、燃え尽きた!!
     生きたまま死んだ若者は、それまでの栄光も、希望も、何もかもを捨て……惰性なる日々を送っていたのだ!!

    彡(゚)(゚)「あほくさ……もう、ワイは……」


    10 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 01:00:18 ID:gvq

    ???「ようやく見つけたぞ……やきう」

     そんな時だった!!

    彡(゚)(゚)「あなたは……原会長……」

    原「引退して、何をやっているかと思えば……こんなボロ雑巾みたいになっとるとはな」

    彡(゚)(゚)「どうして……会長……」

    原「ワイはもう会長やない……『元』会長やな」

     その老人は男が通っていたボクシングジムの会長なる人物だった!!

    原「ちょっと付き合ってくれるか……? あ、もちろんワイがおごったるわ」

    彡(゚)(゚)「え……あ、すんまへん……」

     何を言うでもなく、原は男を屋台へと誘ったのだった!!


    11 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 01:09:20 ID:gvq

    原「お前が引退してから……いきがある奴がおらんくてのぉ。ちょうどあの一戦が契機やと思ってな」

    彡(゚)(゚)「それで……ジムの方は?」

    原「若いもんに任せて、ワイは名前だけ置いて自由にやっとるよ」

    彡(゚)(゚)「そうですか……お疲れ様でした……」

    原「お前の方はどうなんや?」

    彡(゚)(゚)「ワイは――」

    原「いや、すまんかったな……ワイが面倒みてやるのが責任っちゅーもんやのに」

    彡(゚)(゚)「いや……会長さんは何も悪くありまへん……全部ワイが弱いせいで……」

    原「そんなこと言うな……お前さんは目のことさえなけりゃ……もっと高いとこまでいけたはずや」

    彡(゚)(゚)「あ、ありがとうございます……」

    原「まぁ……久しぶりにお前さんの顔見れて良かったわ……」

    彡(゚)(゚)「まぁ……なんとか生きてますわ……はい……」

    原「ほんでな……一つ聞いて欲しいことがあんねん」


    12 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 01:23:48 ID:gvq

    彡(゚)(゚)「聞いて欲しい……ことですか?」

    原「そうや」

    原「もう一度――もう一度ボクシングやってみる気にはならんか?」

    彡(゚)(゚)「え……いや、ワイは……」

    原「あー、言葉が悪かったな。すまん」

    原「今度はボクシングを教える立場になる……っちゅーのはどうや?」

    彡(゚)(゚)「え……ワイが……ですか?」

    原「そうや。ワイのジムのトレーナーになってほしいんや。お前さんがいれば何かと心強いで」

    原「お前さんが引退してからというものの、うちはめっきり勢いがなくなってしまってな。ご存知のとおりうちは人数も少ないし、チャンピオンがいるわけでもない」

    原「だから……お前さんが来てくれれば、また活気を取り戻せるかと思ってな」

    原「まあ……強制はできひん。ちょっと考えてみて欲しいんや」

    原「いつでもええ……もし考えてくれるなら、いつでもええからジムに顔出してくれや」
    http://u111u.info/jT66

    13 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 01:33:05 ID:gvq

     男は考えた……!!
     もう自分は競技を続けることはできない……!!
     しかし、現役時代に良くしてくれた会長の願い……男は悩みに悩んだ!!
     そして――

    原「どうや……初日を終えた感想は」

    彡(゚)(゚)「やっぱり……ボクシングは楽しいですわ……」

     ジムには、男の姿があった……!!

    原「ここに来ると色々思い出すやろ?」

    彡(゚)(゚)「そう……ですね」

     練習生のミットを持ち、アドバイスをし、共に汗を流す男の姿があった!!

    原「また……やりたくなったか?」

    彡(゚)(゚)「そうですね……体がウズウズします……まあ、対人はできませんけど」

    原「そうやな……まあ、ほんまにありがとな」

    彡(゚)(゚)「いえ……こちらこそありがとうございます」

    原「どうや……明日からも来てくれるか?」

    彡(゚)(゚)「はい……よろしくお願い……さしすせそ……」


    14 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 01:43:40 ID:gvq

    彡(゚)(゚)(確かにありがたいことや……会長さんには頭があがらへん……)

     それから――男はジムのトレーナーとして日々を過ごしていた。
     少ない練習生を指導し、共に汗を流し……いけないと知りつつも軽く対人練習の相手役にも買って出ていた!!
     色あせた想い出が蘇り、ふつふつと刺激される本能!!
     しかし……!!

    彡(゚)(゚)(どこか物足りひん……というのも事実や)

     そう、選手としては二度とリングに上がれない男。
     彼はそこにフラストレーションを感じていた。
     また、未来ある練習生に憧れや嫉妬を少なからず感じていたのかもしれないッ!!

    彡(゚)(゚)(でも……会長さんのおかげで以前よりも生活には余裕ができた……不満はないはずや……)

     以前のその日暮らしよりは、安定が保証されている……しかし。

    彡(゚)(゚)(ワイはこのままでええのか……?)

    彡(゚)(゚)「ワイは……ワイは何がしたいんや」


    15 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 02:04:27 ID:gvq

     そして――それはいつものジムでのことだった!!

    KBS「「「すんませーんwww 失礼しまーす」」」

    女「……」

    彡(゚)(゚)(なんやこいつら……青臭いガキが三人と、同じく女が一人)

    K「やっぱ……時代は金、暴力、SEX!! みたいな?」

    B「すんません、ここで無料体験できるとか聞いたんですけどwwww」

    S「やっちゃいましょーよwwww」

    女「……」

    彡(゚)(゚)「……」

    彡(゚)(゚)「無料体験ですか……? あ、はい……好きに見てってください」

    原「君たちは……高校生?」

    K「そっす……コート高校のもんですwww」

    彡(゚)(゚)「コート高……」

    原(不良の吹き溜まりや)

    彡(゚)(゚)「あっ……」

    彡(゚)(゚)「それじゃ、まずは適当に動けるかっこになってくれや」

    K「え? その必要はないっしょwwwww」

    B「ちょっと、試合してもいいっすかwwwww」





    16 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 02:14:35 ID:gvq

    彡(゚)(゚)「あのな……さすがに体験って言ってもこっちの指示に従ってもらわんと」

    K「いや、一試合やったら帰るんでwwww」

    彡(゚)(゚)「あんな……他の練習生もおんねん」

    S「え……? 今一人しか動いてる人いなくないっすか?」

    彡(゚)(゚)「……」

    (*^○^*)「ハァ、ハァ、ハァ……頑張るんだ!!」

    彡(゚)(゚)「……」

    B「いいっすよね? 無料体験なんだから……!!」

    原(ったく……たちの悪いやつらや)

    原「ここはボクシングジムやんな。憂さ晴らししにきたならかえってくれへんか?」

    K「えー、それじゃわかりました……」

     ゴソゴソ。

    K「これで着替えましたよwwww 早くやりましょーよwwww」

    B「あそこの少年と試合させてもらってもいいっすかね……?」

    (*^○^*)「……?」

    彡(゚)(゚)「どうします……?」

    原(そうやな……現実を思い知らせれば帰るやろ)

    原「分かった――ポジ!! ちょっとええか!?」

    (*^○^*)「え……? 僕ですか!?」


    17 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 02:31:19 ID:gvq

    原(悪い……これも練習やと思ってやってくれへんか?)

    (*^○^*)「僕が……ですか!?」

    原(大丈夫や。ポジも高校生やし、見たとこ体格も同程度。始めてから日は浅いが、今のお前さんならなんとかなるで)

    (*^○^*)「が、頑張るんだ……!!」

    原(避ける練習だと思ってくれや。相手はマウスピースなしやから、顔面は打てへんが……ボディなら遠慮なしに打ってええから。まあ軽く当てるぐらいやったら顔面にもジャブいれてええ)

    原「それじゃー、この子しかおらんから、この子が相手になる」

    彡(゚)(゚)「1ラウンド2分でいくで」

     両者の準備が整い……そして試合は始まる!!


    20 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 02:46:17 ID:gvq

    (*^○^*)(練習の成果……試すんだ!!)

     カーン。

    K「うおりゃ……!!」

    (*^○^*)(テレホンパンチ……隙がありすぎなんだ!!)

     ヒョイッ。

    K「おりゃあ!!」

     ヒョイッ。

    K「このぉッ!!」

     ヒョイ。

    (*^○^*)(ダッキングやウィービングを使わなくても、ステップだけで避けれるんだ!!)

    K「んもぅッ!!」

     ヒョイ。

    K「はぁ、はぁ、はぁ……」

    (*^○^*)(ブンブン振ってるからすぐ体力がなくなるんだ!!)

    (*^○^*)(ここで――)

     ボフン!!

    K「かねぇ゛ッ!!」

    彡(゚)(゚)「バックステップで下がり、相手の隙をついた右のボディーストレート。がら空きの腹へ綺麗に入ったな」

    (*^○^*)(顔ががら空きなんだ!!)

     ぺチン!!

    K「ぼぉりょく゛ッ!!」

    彡(゚)(゚)「腹に入ってくの字に曲がったところへ、軽くジャブ」

    (*^○^*)(また腹が空いたんだ!!)

     ボフン。

    K「セェッックス゛!!」


    23 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 02:56:50 ID:gvq

    彡(゚)(゚)(顔に軽く当てられてハッとした相手が、顔を守る挙動をした隙にもう一度ボディーストレート。決まりや)

    K「ウェッ、ウェッ、ウェッ……おげぇ……もう無理もう無理!!」

     カーン!!

    原「試合終了やな」

    B「情けなっwwww 次は俺、いいっすか?」

    彡(゚)(゚)「……」

    (*^○^*)「僕は大丈夫なんだ!!」

    原「そうか……。ほな、次行こか!!」

     カーン。

    B「かねぇ゛、ぼぉうりょく゛、ゼェッグズ……!!」

     カーン。

    S「お、お前ら弱すぎ……!! 俺がやっちゃうよー? やっちゃうよー!?」

     カーン。

    S「きょぉうとあにめぇえしょお゛お゛お゛お゛ん……!!」

     カーン。

    (*^○^*)「や、やったんだ……!!」

    原「ポジ、うまくなったやん!!」

    彡(゚)(゚)「ホンマ、順調にうまくなってるやんな!!」

    女「……」

    彡(゚)(゚)「……?」

    女「あの……私も……いいか?」
    http://u111u.info/jT66

    24 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 03:14:39 ID:gvq

     男は感じ取っていた……!!
     三人の不良の取り巻き、一人の女!!
     不良の遊びに付き合わされただけだと思っていた……しかし、違った!!
     なんと、その女もグローブを手に取ったのだ!!
     男は、女の目に鋭い光が宿っていることを感じ取っていた……!!

    彡(゚)(゚)「あんな……さすがに女の子と試合は……」

    女「女だからって差別するのか……?」

    彡(゚)(゚)「いや……差別とかやない。純粋な男女の差ってもんがあるわけや。素人同士ならまだしも、ポジは練習生や」

    彡(゚)(゚)「それに君が経験者ならまだ考えたかもしれんやが……素人の、それも女の子とやったらどうなるかは……想像がつくやろ?」

    彡(゚)(゚)「後でなんか言われても責任は取れへんってことや……無理は言わん。なんならワイがミット持ってやろうか?」

    彡(゚)(゚)「やるとしても……こちらからは、ポジからは手出せへん。避けるか、軽くタッチするくらいで……後は君が好き放題やるって感じやんな。さっきみたいな試合はできひんよ」

    女「経験者……だと言ったら?」

    彡(゚)(゚)「な、なん……やて?」

    女「経験者と言ったら……ハンデなしの試合、やってくれるか?」

    彡(゚)(゚)「ほ、ホンマ……か?」

    原「嘘ついてもお嬢ちゃんが泣きをみるだけやで」

    女「わーってる……嘘じゃない。なんなら見せてやろうか?」

    彡(゚)(゚)(なんや……こいつ)


    25 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 03:28:06 ID:gvq

    女「――シュッ!!」

     それは一瞬!! ほんの一瞬!!
     一瞬……それだけの動きだった。
     しかし……その場の人間を黙らせるには十分過ぎる衝撃だったのだ!!

    彡(゚)(゚)(こいつ……!!)

    原「……」

     見せてやる――そう言って空虚へ放った右ストレート。
     空気が裂ける、その悲鳴が鳴り響く……!!
     腰のキレ、腕の伸び、スピード……それはお手本のような右ストレート!!

    原「わかった――ちょっとやってみんしゃい」

    彡(゚)(゚)「か、会長……!?」

    原「お嬢ちゃん、後で顔に傷できたいうても知らんからな」

    女「そんなもん最初から気にしてないさ」

    原「ポジ……いいか?」

    (*^○^*)「もちろんなんだ!!」

    (*^○^*)(見たところ女の子の中では身長は高いほうなんだ……恐らく160後半)

    (*^○^*)(でも僕と比べたら身長差がありすぎるんだ……軽く触れるだけ、あとは避けて避けて遊んであげるんだ!!)

    (*^○^*)(あわよくば……短髪で勝気な美少女とお近づきになりたいんだ!!)

    彡(゚)(゚)「そ、それじゃ……さっきと同じ、1ラウンド2分でいくで。準備してや」


    26 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 03:45:16 ID:gvq

    女「……」

    (*^○^*)「よろしくお願い……なんだ!!」

    女「おう……」

     グローブをはめた拳を交わす両者!!
     そして――ゴングが鳴り響く!!

    (*^○^*)(どーせさっきの不良たちと同じ――)

    女「シュッ――!!」

     パンッ!!

    (*^○^*)「――ッ!?」ジィィィィン

    彡(゚)(゚)「なん……やと……」

     ゴングが鳴ったその瞬間……!!
     女は先制の左ジャブをポジへと放った!! それは気を抜いていた彼の顔面へ綺麗に吸い込まれる!!

    原「どうやら本当だったようやな」

     そう……!!
     構え、ステップ、パンチの出し方……全てにおいて女は素人のそれとはまるで違っていた!!
     経験者の動き……ボクサーの動きだった!!

    (*^○^*)「なっ――」

     ヒュッ――

    女「シュッ――!!」

     ボフッ!!

    (*^○^*)「ングッ!!」

    彡(゚)(゚)(先手をつかれ焦ったポジは左ジャブを放つ……しかし、それをパリーイングしながら……つまりは前の手で払ってバックステップ)

    彡(゚)(゚)(すかさずその隙に右のボディーストレート……経験者の動きや)

    彡(゚)(゚)(経験者――しかも)


    27 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 03:57:40 ID:gvq

    (*^○^*)(思いのほか手強い……こうなったら僕も攻めるんだ!!)

     ボフッ。

    (*^○^*)「――ッ!?」

    女「……!!」

     スパアアアアアアアアアン!!!!

    彡(゚)(゚)「なっ――!?」

     閃光……稲光ッ!!
     その瞬間、稲妻が走るッ!!

    彡(゚)(゚)(スイッチが入り攻め込むポジ。けん制のジャブを入れつつ下がる女)

    彡(゚)(゚)(次第にコーナーへ追い詰められる。女もここまでか――そう思った瞬間)

    彡(゚)(゚)(まず、前へ出てくるポジの腹へ左のボディーストレート)

    彡(゚)(゚)(それで一瞬動きが止まった……その次の瞬間)

    彡(゚)(゚)(僅かに下がった顔のガード、そこへ――)

    原「綺麗なワンツーだ」

     ワンツー。
     ボクシング、コンビネーション技の中では基礎中の基礎!!
     しかし、ワンツーほど大事なパンチはない……!!
     ワンツーが綺麗なボクサーほど強い……つまり、ワンツーを制すれば試合を制す!! 世界を制す!!
     基礎にして完成された、もっとも重要なコンビネーションなのだ!!

    (*^○^*)「――!?」クラッ
     


    28 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 04:27:32 ID:gvq

    彡(゚)(゚)(身長差があるにも関わらず――下がったガード、空いた顔面へ下から突き上げ、突き抜けるようなワンツー)

    彡(゚)(゚)(下から突き上げた右ストレートは的確にポジの顎をとらえた)

    原「スタンディングダウンやな」

    彡(゚)(゚)「はい……」

     ダウンしたわけではない……しかし、例え倒れなくともダウン相当のダメージを受けたと審判が判断すれば、それはスタンディングダウンとなるッ!!

    彡(゚)(゚)「ストップ!!」

    彡(゚)(゚)「ポジ――ダウンや」

    (*^○^*)「ま、まだ……やれるんだ!!」

    彡(゚)(゚)「……」

    女「いいよ……来な!!」

    彡(゚)(゚)「――ファイッ!!」

    (*^○^*)(侮った……僕は馬鹿だったんだ!!)

    (*^○^*)「女だからって……容赦しないんだ!!」

    女「……!!」

     バンッ!! バンッ!!

    女「……ッ!!」

     顔色を変え、ポジは本気で女へ向かうッ!!
     男としてのプライド!! 負けられないという誇り!!

    女「クッ――!!」

     まるで機関車のように、ポジは女へ向けて猪突猛進。
     女は後退しながらもジャブやボディーストレートを入れてなんとか機関車を止めようとするが……ここで体格差の壁が立ちはだかる!!


    29 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 04:42:43 ID:gvq

    (*^○^*)(コーナーへ追い詰めるんだ!!)

    彡(゚)(゚)「ポジ!! 姿勢を低く!! 腹ががら空きや!!」

    彡(゚)(゚)「姿勢を低くしてダッキングで相手の懐へ入り込め!!」

    (*^○^*)(……!!)

     ボスン、ボスン。

     ポジは姿勢を下げ、顔のガードを固める。
     そうしながら、ダッキングの動きで女へにじり寄る!!
     ガードを固めながら前進する戦車のようなポジ。
     女はジャブを当て下がることしかできない……!!

    (*^○^*)(追い詰めたんだ!!)

     そして――

    (*^○^*)(もらったんだ――!!)

     ポジは左ジャブを出し……。

    女「――!!」

    彡(゚)(゚)(コーナーへ追い詰められて、相手の動きは遂に止まった!! 息もあがっとるな!!)

     女はベタ足になり、腰を落とし、顔面のガードを固めた――接近戦の構えである。

    彡(゚)(゚)「こうなったら――決まりやな」

     左ジャブがガードの上から女を揺さぶり……

    (*^○^*)「――!!」

     押し込んだ左。
     僅かに崩れたガードの隙間から――

    (*^○^*)(右フックなんだ!!)


    30 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 04:54:02 ID:gvq

    女「――ッ!!」

    (*^○^*)(もらった……!!)

    彡(゚)(゚)(……ッ!!)

     女は崩れ落ちる――誰もがそれを予想しただろう。

    女「……ッ!!」

     ポジの右フックが。

    (*^○^*)「なっ――」

     空を切った。

    彡(゚)(゚)「な……!?」

     そして――

    原「これは……」

     バスン!!
     鈍い音が……ポジの腹から発せられた。

    (*^○^*)「ングォッ!!」

     女は――ポジの右フックをウィービングで華麗にかわし、そして右のどてっぱらへ左ボディーブローの一撃。
     全く予期せぬ一撃は、完全に油断していたポジの腹を抉り、その衝撃は内臓へ響く!!

    (*^○^*)「あ゛……!! ハッ……!!」

     腹を抱え、膝から崩れ落ちるポジ……。

    原「あちゃー……これはキツイな……」

    彡(゚)(゚)「ダウン!!」

     カーン!!

     そして……ラウンド終了のゴングが虚しく木霊したのだった。
    http://u111u.info/jT66

    31 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 05:10:36 ID:gvq

    KBS「「「しゃーっした。しゃしゃしゃー!!」」」

     そして……。

    (*^○^*)「まだ気持ち悪いんだ……」

    原「ボクサーはな、ボディーでダウンとられるっちゅーのは屈辱なんや。それも女の子に……」

    (*^○^*)「……」

    彡(゚)(゚)「これからもっと練習せなあかんな、ポジ」

    (*^○^*)「が、頑張るんだ……!!」

    彡(゚)(゚)「それにしても――」

     三人の不良が颯爽と立ち去っていった中……女は運動着から制服へ着替えを済まし、ジムの入り口に一人立っていた。
     その背中……どこか少女とはかけ離れた、年齢不相応の哀愁のようなものが感じられた。

    彡(゚)(゚)「あんたは一体――」

     何者なんや――男はそう尋ねようとした。

    女「ボクシングか……」

     しかし、女の一言で遮られる。

    女「久しぶりに、いい練習になったよ。ありがとな」

     それだけを言い残して。

    彡(゚)(゚)「ま、待ってくれや……きみは」

    女「私は――」

    女「いや……なんでもない。それじゃーな」

     まるで未練などないかのように……さっぱりとした面持ちでどこかへ消えた。


    32 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 05:45:25 ID:gvq

     戦後ッ!!
     混沌とした時代、人々は皆等しく貧困の中にいたッ!!
     貧困は何も目に見えるようなものだけではない!!
     子供たちは心……愛に飢えていたッ!!

    KBS「「「いやー、今日もやっちゃいましたねwwww」」」

    女「……」

    K「これで俺たち最強……みたいな!?」

     ハッハッハッハッ!!

    K「勝利の一服、いっちゃいます!?」

    B「おーいいね!!」

    S「おん子も洋モクどう?」

    女「私は……いらねぇ」

     その少女――名を「おん子」と言う!!
     先日ポジに強烈なワンツーとボディーを見舞った少女、その人である!!

    K「なんだよつれねーなー、おん子は」

    おん子「タバコなんざ吸ったら体力が落ちる」

    B「まーだそんなこと言ってんの?」

    S「もしかして……まだボクシングに思い入れがあるわけ?」

    おん子「うっせえ!!」

     ドガッ。

    K「痛ッ――なんで俺!?」

    おん子「お前の顔がうるさかったからだ!!」

     不良の吹き溜まり――そう呼ばれる高校で、こうして喧嘩の日々に明け暮れている少年少女だった。


    33 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 05:52:04 ID:gvq

    おん子(お父さん……)

     そして――拭えぬ虚無感を抱えたまま家路につく!!
     父のいない家庭……父を亡くしたおん子は、母と弟と慎ましく暮らしていたのだった!!

    おん子「……?」

     ガサガサ。

    不良A「見つけたぞ……コートの女番長さんよ」

    おん子「へぇ……よってたかって一人に数人で挑んでこようなんて……情けないね」

    不良B「お前さぁ……気に食わないんだよね」

    不良C「さっさとボコして、みんなでマワそうぜwwww」

    おん子「畜生が……!!」


    34 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 06:01:53 ID:gvq

     時は少し遡り――

    (*^○^*)「あの女の子……あれから姿を見せないんだ」

    彡(゚)(゚)「そうやな……まあ、体験ってことやったし」

    (*^○^*)「それにしても、動きが半端なかったんだ。もったいないんだ」

    彡(゚)(゚)「そうやな、でも……女の子じゃ、残念ながら……」

    原「そうでもないみたいやぞ」

    彡(゚)(゚)「――会長?」

    原「これを見てみい……」

    (*^○^*)「これは『Jスポ』なんだ!!」

    原「戦後、この国は確実に変わりつつある……女性の社会進出が目覚しくなってきとるみたいや」

    彡(゚)(゚)「これは……女子のプロボクシング?」

    原「女性にも平等な権利、活躍の場を。そういう流れで女子プロボクシングも盛り上がってきとる」

    原「それだけやない……学生、アマチュアでもそうみたいや」

    (*^○^*)「女子選手が紙面を飾ってるんだ!!」

    原「そうや……やから、あの女の子にも是非ボクシングをやって欲しいけどな」

    原「あの娘……確実にええとこまでいける」

    彡(゚)(゚)「そうですね……どこであんな技術を身につけたのかしりませんが」


    35 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 06:11:49 ID:gvq

    原「そこでや――うちでも女性の練習生をとろうや!!」

    彡(゚)(゚)「な……!? 会長!?」

    (*^○^*)「それ、いいんだ!! 人数がもっと増えれば盛り上がるんだ!!」

    彡(゚)(゚)「そうやけど……具体的には……」

    原「そうやな――やきう、お前さんがあの女の子連れてきーや!!」

    彡(゚)(゚)「――ファッ!? ワイがですか!?」

    原「そうや。どーせコート高校の不良やろ? あいつら、よく町外れの廃工場辺りにたむろしとるやろ!!」

    原「ちょっと見てきてみい!!」

    彡(゚)(゚)「あの……ワイ……襲われたらたまったもんじゃないんやけど……」

    原「大丈夫やって……!! あの女の子をうちらの女性練習生第一号にするんや!!」

    (*^○^*)「お願いなんだ!!」

    彡(゚)(゚)「あのな……!! ワイはどーなってもいいんか!? ポジもこいやッ!!」

    (*^○^*)「僕は練習なんだ!! やきうさん強いから大丈夫なんだ!!」

    原「そうや……!! あの女の子をスカウトしてくれ、やきう!!」

    彡(゚)(゚)(あ、あほくさ……!!)


    36 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 06:20:13 ID:gvq

     そして……。

    おん子「クソッ……!!」

     ドガッ!!

    おん子「ングッ!!」

     ボクシングは喧嘩ではない……!!
     それは彼女自身が分かっている!!
     しかし、おん子も喧嘩慣れしているとは言っても、男複数相手に一人では多勢に無勢!!
     戦を制するのは数なのだッ!!

    おん子「やめ……ろっ!!」

    不良A「へへ……やっと捕まえたぜ!!」

    不良B「大人しくしろ!!」

     バキッ!!

    おん子「グ……ハッ!!」

     ただ唯一、不幸中の幸いだったのは……相手は凶器を所持していなかったこと!!

    おん子「クソ……!! やめ……!!」

    不良C「いいねー!! この強気な顔を泣き顔に変える快感と言ったら!!」

    不良A「剥いじまうか!!」

    不良B「おう!! 脱がせろ!!」

     獣と化した男は、おん子の柔肌へ手を伸ばす……!!

    不良A「へへっ、いただきま――」

     ドゴォ!!

    おん子「――!!」


    37 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 06:29:05 ID:gvq

     その時であった……!!

    彡(゚)(゚)「なんやワレェ……女一人に男複数で……外道が!!」

    おん子「……!!」

     おん子を探しにさ迷っていたやきう。
     彼が偶然、その場を通りかかったのだ!! なんたる偶然!!

    彡(゚)(゚)「警察呼ぼか!? こんなことしたら少年院どころやなく少年刑務所行きやで」

    彡(゚)(゚)「豚箱で先輩方からアツゥイ『可愛がり』を受けることになるんやで!!」

    不良B「なんやこのおじさん!!」

    彡(゚)(゚)「おじさんじゃない……おにーさんだろォン!!」

     ドガッ!!

    不良B「あぺし――」

     バタリ。

    不良C「な、なにするだ……ば、ばけものだぁー!!」

     ダッ。

    彡(゚)(゚)「ふう……危なかったな。まったく、よく因縁買ってるみたいやな、ねーちゃん」

    おん子「あんたは……」
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    38 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 06:37:44 ID:gvq

    おん子「あんた……あのジムの……」

    彡(゚)(゚)「そうや……こんなとこで何してたんや?」

    おん子「家に帰る途中で……あいつらに……」

    彡(゚)(゚)「そうか――お言葉やけどな、もうこんな世界から足を洗った方がええでほんま」

    おん子「……!!」

    おん子「うっさいんだよ……私のことなんて何も知らない癖に……」

    彡(゚)(゚)「……」

    おん子「だいたい……なんであんたが……!!」

    彡(゚)(゚)「それなんやけどな」

    彡(゚)(゚)「ねーちゃん、うちでボクシングせーへんか?」

    おん子「――!!」

    彡(゚)(゚)「あんな技術どこで身につけたか知らんけど……ねーちゃん、凄い素質あるで」

    彡(゚)(゚)「最近は女子ボクシングも盛り上がっとる。学生も、アマチュアも同様や」

    彡(゚)(゚)「やから、ねーちゃんが活躍する……その居場所があるってことや」

    彡(゚)(゚)「前の動き、態度見たら分かる――ねーちゃん、ボクシングが好きやろ?」

    おん子「なんで……あんたにそんなこと……!!」

    彡(゚)(゚)「分かるんや。ワイがボクシングを初めて目にしたときみたいに、ねーちゃん輝いとった」

    彡(゚)(゚)「あれは希望と野心を持った人間の目や」

    彡(゚)(゚)「どうや? やってみーひんか?」


    39 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 06:46:11 ID:gvq

    おん子「――辞めたんだ」

    彡(゚)(゚)「……?」

    おん子「ボクシングはもう……辞めたんだよ」

    彡(゚)(゚)「でも、前うちに来たやんけ」

    おん子「あれで、もう綺麗さっぱりさよならしたんだ……!!」

    彡(゚)(゚)「それにしても、未練があるからうちへ来たってことやんな?」

    おん子「う……うるせぇ!!」

     ドゴッ。

    おん子「うるせえ……」

    彡(゚)(゚)「やっぱり、素質あるで。ええパンチや」

    おん子「――!!」

    おん子「とにかく……もう辞めたんだ私は!!」

     ダッ。

    彡(゚)(゚)「あ――待ってくれねーちゃん!!」

    彡(゚)(゚)「まだ名前も聞いて――」

    おん子「うっせ!! 目玉飛び出し野郎!!」

    彡(゚)(゚)「――ファッ!?」

    彡(゚)(゚)「いつでもジムで待っとるで……!! いつでも来てかまへんで!!」

    おん子「……!!」

    彡(゚)(゚)「行ってもうた……」

    彡(゚)(゚)「会長に叱られるでホンマ……」


    40 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 07:02:30 ID:gvq

     あれから数日――ジムにおん子の姿はなかった!!

    (*^○^*)「やきうさん、あと一押しなんだ!! 頑張るんだ!!」

    彡(゚)(゚)「うっさいわワレェ。いてこますぞ!!」

    彡(゚)(゚)(しかし……気になるなぁ……)

    彡(゚)(゚)(なんでやろ……)

     あの少女と自分……どこか重なる部分を感じ取ったやきう!!
     そう……今のおん子は、少し前の自分と同じだったのだ!!
     燃え尽き、枯れ果て……行き場のない怒り、欲求、葛藤……渦巻く感情を酒や喧嘩で晴らす。
     しかし、何度同じことをしようが、空っぽの心は埋まらないッ!!
     酒は、喧嘩は、心の隙間を埋めてはくれないのだ!!

    彡(゚)(゚)(何がねーちゃんをああさせたんやろな……)

    彡(゚)(゚)(何か根本的な原因があるはずや……)

    彡(゚)(゚)(しかし、無理やりやらせるわけにはいかへん……そんなことしても続かないのは自明の理や)

    彡(゚)(゚)(どーしたもんか)

     これからの対策を練っていたとき……!!

    KBS「「「助けて下さいッ!!!」」」

    彡(゚)(゚)「ファッ!? お前らこの間の……何やどうした!?」

    K「おん子が……」

    B「おん子が……」

    S「敵の本部へ単独でカチコミに行きましたッ!!」


    42 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 07:11:19 ID:gvq

    彡(゚)(゚)「な……なんやと!?」

    K「敵対してる隣町の高校のたまり場へ……一人でカチコミに行ったんです……!!」

    B「この前奇襲されたっていうから……恐らくその復讐に……!!」

    S「いくらおん子でも……なんで一人で……!!」

    K「お願いです……ここしか頼れるお方がいないと思って……!!」

    B「センコーはあてにならないし、警察なんて呼んだら……」

    KBS「「「助けてくらはいッッ!!」」」

    彡(゚)(゚)「えぇ……(困惑)」

    (*^○^*)「警察呼ぶんだ!!」

    彡(゚)(゚)「だからそれがダメだって……」

    彡(゚)(゚)「会長は――こんな時に限っていないんか!?」

    彡(゚)(゚)「くそ……」

    彡(゚)(゚)(自殺行為も甚だしいやんけ……何考えとるんや!!」

    彡(゚)(゚)「分かった……!! すぐにそこ案内してクレメンス!!」


    46 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 07:49:36 ID:gvq

    って戦後ちょいなのにカラオケボックスとかおかしすぎィ!!
    これも工場跡ってことにしてクレメンス……


    47 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 08:01:08 ID:36t

    劇場パブ的なあれやろ?


    48 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 08:09:06 ID:gvq

     彼女にとっての終焉――今まさに始まろうとしていた、その時ッ!!

    彡(゚)(゚)「待つんやで!!」

    おん子「……!!」

     背後からの声ッ!!

    おん子「あんた……!!」

    彡(゚)(゚)「すまんやで……ワイはこの娘の保護者や」

    おん子「――は?」

    不良A「――は?」

    彡(゚)(゚)「うちの娘がとんだご迷惑を……許してクレメンス」

    不良B「こいつ……前の……!!」

    不良C「ギョロ目得体野郎じゃねぇか……!!」

    彡(゚)(゚)「そうや。ワイはこの娘の保護者やんな。ワイからキツく言っておくから、ここはどうか穏便に……」

    不良A「できるわけないだろうが!!」

    おん子「どうして……あんたが……」

    彡(゚)(゚)「にーちゃんたちが助けを求めに来たんやで。なんや、わざわざ『さよなら』なんて置手紙残してきたっていうやん」

    おん子「……」

    彡(゚)(゚)「もう……こんな世界から足を洗おうや」
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    49 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 08:15:54 ID:gvq

    彡(゚)(゚)「ちゅーことで、この娘は今日から女番長の座を下ります。やから手を出さんとってくれや」

    不良C「さのさぁ……こっちはお前にやられてんだよね」

    不良A「このまま何もせず帰してあげると思うわけ?」

    彡(゚)(゚)「だったら――どうか、この通りやで」

    おん子「あ……あんた何をっ……!?」

     それは……土下座!! 圧倒的土下座!!

    彡(゚)(゚)「この通りや……」

    彡(゚)(゚)「ワイの土下座に免じて、ワイは好きにしてええから……この娘には手を出さんといてくれや」

    不良A「ん……?」

    不良B「好きにしてもいい――なるほどねえ!!」

     ドガッ!!

    不良C「じゃー好きにさせてもらうわ!!」

     ボゴッ!!

    おん子「あんた……!! クソ!! てめぇら!!」

    彡(゚)(゚)「ねーちゃんは手出ししたらアカン!!」

    彡(゚)(゚)「――グハッ!!」

    おん子「あんた……どうして……なんで!!」

    彡(゚)(゚)「ねーちゃんも……こんなところ、もうころごりなんやろ?」

     ドゴッ!!

    彡(゚)(゚)「グフ……!! それは、それは……ワイが良く知ってることや」


    50 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 08:24:31 ID:gvq

    彡(゚)(゚)「ワイもな……夢や希望があった……!!」

    不良A「こいつ……さすが恵体!! なかなか頑丈だぜ!!」

     ドゴォ!!

    彡(゚)(゚)「グハッ……!! や、やけど……ある日突然奈落の底に落とされた……んや!!」

    不良C「恵まれた体格からクソみたいな境遇ッ!!」

     ボゴッ!!

    彡(゚)(゚)「それからは……死んだような毎日や……全ての情報を閉ざし、閉じこもり……殻の中にこもってたんや!!」

    不良B「いい加減くたばれ!!」

     バキッ!!

    彡(゚)(゚)「やけどな――人間、生きてればそういうときもあんねん」

    おん子「もう……もうやめてくれ!!」

     べキッ!!

    彡(゚)(゚)「ワイも……会長の……助けられて……また立ち上がれた……やんけ」

    彡(゚)(゚)「あの日――ホワイトフェザーに打ちのめされたワイも」

    彡(゚)(゚)「そんなワイも……人間は……生きてりゃまた立ち上がれるんや……!!」

    おん子「ホワイトフェザーって……あんたもしや……!?」

    不良A「これで終わりだ!!」


    52 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 08:44:14 ID:gvq

    原「やきう……なんてことを……」

    彡(゚)(゚)「ホンマ、すんません……でも、こっちは手出ししてないんで」

    (*^○^*)「やきうさん、ボロボロなんだ」

    彡(゚)(゚)「左目以外は丈夫なんで……大丈夫やと思います」

    原「もう……こんなことは止めてくれ……ホンマ」

    (*^○^*)「それで……あの子はどうなったんだ?」

    彡(゚)(゚)「ああ……にーちゃんたちから聞いた話、不良を引退したそうや。向こうのボスもよこして、正式に引退したらしいで」

    彡(゚)(゚)「向こうのボスも実際に目にして、それで認められたわけやから、もうカタギのねーちゃんに手出すことはできひん」

    彡(゚)(゚)「ってわけわからんルールがあるみたいやで」

    (*^○^*)「ってことはとりあえず、もうあの子が狙われる心配はないってことなんだ?」

    彡(゚)(゚)「そーゆーことらしいな。よく分からんけど」

    彡(゚)(゚)「ともかく……もうこんな目に合うのは今後一切ごめんやで」

    (*^○^*)「でも……あの子、ここへ来ないんだ……」

    彡(゚)(゚)「ま、そこは本人次第やろ。無理やりやらせても意味はないんやし」


    53 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 08:49:33 ID:gvq

    原「まあ……そうやなあ……」

    原「とりあえず、やきうは傷が完治するまで安静にしてや。ホンマ」

    原「ジムはワイが見とくから」

    彡(゚)(゚)「申し訳ありません、お言葉に甘えてそうさせて――」

    (*^○^*)「――あっ」

    彡(゚)(゚)「ん……? なんや?」

    おん子「……」

    彡(゚)(゚)「……」

    おん子「すまない……ちょっと、いいか……?」

    原「……」

    (*^○^*)「……」


    54 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 08:55:48 ID:gvq

    おん子「この前は……ごめん」

    彡(゚)(゚)「……」

    彡(゚)(゚)「いや、気にせんでええ」

    彡(゚)(゚)「もしあの時手を出していたら……もう一生後戻りできひんかった」

    彡(゚)(゚)「そう思ってやっただけや……ねーちゃんに罪はないで」

    おん子「そんな……!! あれは私のせいで……!!」

    彡(゚)(゚)「もうええんや――あれで」

    彡(゚)(゚)「終わったことや……はい、終わり!!」

    おん子「……」

    彡(゚)(゚)「それより……ねーちゃんはどこへ向かっているんや?」

    おん子「ちょっと、ついてきて欲しいところが……あるんだ」

    彡(゚)(゚)「……?」

    おん子「ついた――ここだ」

    彡(゚)(゚)「ここは……お墓……?」

    おん子「ここはお父さんのお墓だ」

    彡(゚)(゚)「あっ……」

     そして――父の墓前で、おん子は己の全てをやきうに明かしたッ!!


    55 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 09:04:31 ID:gvq

    彡(゚)(゚)「そんな……ことって」

    彡(゚)(゚)「ホワイトフェザーの娘が……ねーちゃんやったってのか!?」

    おん子「……」

    彡(゚)(゚)「そして――彼はもうこの世にいない」

    彡(゚)(゚)「そんな……まさか……!!」

    おん子「これがお父さんの写真だ」

     スッ。

    彡(゚)(゚)「そんな……」

    彡(゚)(゚)「ワイは……彼に倒されて……それで」

    彡(゚)(゚)「燃え尽きて……網膜剥離で引退して……全ての情報を入れないように、閉じこもっていた」

    彡(゚)(゚)「その間に彼は……ホワイトフェザーは……」

    彡(゚)(゚)「ワイとの一戦が引き金となり……意識不明……その後……息を引き取ったって……」

    おん子「あの試合のとき……私は会場にいなかった」

    おん子「挑戦者があんただったなんて……」

    おん子「我ながら鈍いけど……今更気づいた」

    彡(゚)(゚)「ワイは……ねーちゃんの父ちゃんを殺してしまったってことか……!?」


    56 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 09:11:19 ID:gvq

    おん子「……」

    おん子「いや……違う」

    おん子「リングの上は平等だ……そしてそのような危険も承知で、お父さんはやっていた」

    おん子「だから……あんたのせいじゃない」

    彡(゚)(゚)「ワイのことが……憎くないのか……?」

    おん子「――さあね」

    おん子「……」

    おん子「あれは試合だ……人殺しじゃない」

    おん子「おれは事故……それに、あんたのせいでっていう確証はない」

    おん子「仮にあったとしても……何度も言うけど、あれは試合だ」

    おん子「誰も……誰も悪くない……と思う」

    おん子「だから……悪い。手を合わせてやってくんねぇか……」

    彡(゚)(゚)「……」

    彡(゚)(゚)「すまんな……本当に……すまんな……」

    おん子「でも――まあ、ボクシングって面白いよな」

    おん子「……」

    おん子「面白い……よな」

    彡(゚)(゚)「ねーちゃん……一つ、いいか?」
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    57 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 09:19:29 ID:gvq

     そして。

    原「お、おい……やきう、お前さん」

    (*^○^*)「な、何をする気なんだ……?」

    彡(゚)(゚)「いいか、手加減なしや」

    おん子「ああ……」

    彡(゚)(゚)「全力でぶつかってこい!!」

    おん子「……ああ」

     あんた……罪滅ぼしする気じゃないだろうな?
     違う……そうやない……そうやないんや。

    おん子(分かってるよ)

    彡(゚)(゚)「1ラウンド2分や。ええな?」

    おん子「分かった――全力で行く」

    原「お、おい……!! 二人とも何を!!」

    彡(゚)(゚)「いくで!!」

     カーン!!

    おん子「――!!」

     バシッ!!

    彡(゚)(゚)「もっとこい!!」

    おん子「分かってらぁ!!」

     シュッ、ビシッ!!

    (*^○^*)「か、勝手に試合を始めたんだ!!」


    58 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 09:27:16 ID:gvq

    (*^○^*)「やきうさんはほとんど手を出さずに、避けて、時に打たれてやってるんだ……!!」

     シュッ、シュッ、パシッ、ビシッ。

    彡(゚)(゚)「顎があがっとるぞ!!」

     バシッ!!

    おん子「痛ッ――!!」

    おん子「このやろォ!!」

     シュッ、シュッ、バスン!!

    彡(゚)(゚)「そうや、もっと来い!!」

    おん子「クソォ!!」

     パシッ、バシッ、シュッ!!

    彡(゚)(゚)「ガード下がっとる!!」

     バシッ!!

    おん子「クッ……!!」

    彡(゚)(゚)「足もとまっとる!! スタミナが全然足らへん!! 蚊トンボや蚊トンボ!!」

    おん子「う……るせぇ!!」

     シュッ、シュッ!!

    彡(゚)(゚)「パンチも弱い、弱すぎィ!!」

    おん子「うるせええええええええええ!!!!!!」

     ズンッ!!

    彡(゚)(゚)「それや――その、パンチや」

     カーン!!


    59 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 09:37:22 ID:gvq

    おん子「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!!」

    彡(゚)(゚)「この程度で……まだまだやな」

    おん子「っるせぇ……あんたも息上がってるぞ……」

    おん子「も、もう……ダメだ」

     バタリ。

    彡(゚)(゚)「……」

    おん子「な……んだよ」

    彡(゚)(゚)「どうや――やっぱりおもろいやろ? ボクシング」

    おん子「……」

    おん子「……ああ」

    彡(゚)(゚)「広い目で見ると、ねーちゃんはまだまだや。やが……いいもんも持っとる」

    おん子「……」

    彡(゚)(゚)「また……やりたくなったらいつでもこいや。相手したる」

    おん子「ジムに入れ――とは言わないんだな」

    彡(゚)(゚)「……」

    彡(゚)(゚)「おう」

    彡(゚)(゚)「父ちゃんが白い翼なら……ねーちゃんは黒い翼や」

    おん子「……?」

    彡(゚)(゚)「黒は全てを塗りつぶす最強の色でもあり」

    彡(゚)(゚)「最強ゆえに……孤独や」

    彡(゚)(゚)「やけど……その黒をうまく自分のものにできる」

    彡(゚)(゚)「その素質が……ねーちゃんにはあるはずや」

    彡(゚)(゚)「ホワイトフェザーならぬ、ブラックフェザーやな」

    彡(゚)(゚)「その翼でどこまで飛べるか――また、来たくなったらいつでも来てええ」


    60 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 09:48:23 ID:gvq

     二人はそれ以上何も言わなかった、言う必要などなかったのだ!!
     拳と拳で疎通を図った……分かり合ったのだ!!
     奇妙な運命の巡り合わせ――これが神のいたずらなら、なんという奇跡を起こしてくれたのだろうか。

    原「お、やきう。怪我は大丈夫か?」

    彡(゚)(゚)「はい、おかげさまでもうピンピンですわ!!」

    (*^○^*)「やきうさんおかえりなんだ!! さっそくだけどミット持って欲しいんだ!!」

    彡(゚)(゚)「ダメや。今日はバック練の日や」

    (*^○^*)「バック練?」

    彡(゚)(゚)「そや。地獄のサンドバッグ打ち……まずは1分間と30秒、15秒の順でひたすらバック打ちや」

    (*^○^*)「え……」

    彡(゚)(゚)「ちなそれ数セットやって終わったらミット持ったるわ。死ぬほどな」

    (*^○^*)「じ、地獄なんだ……」

    原「お、なんか火がついたな。やきう」

    彡(゚)(゚)「おかげさまで、休み中に色々整理つきましたわ」


    61 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 09:58:13 ID:gvq

    彡(゚)(゚)「さて――ほんなら今日もぼちぼち始めよか!!」

    (*^○^*)「さ、先が思いやられるんだ……」

    彡(゚)(゚)「何言うてんねん。こんなの序の口、序の序ってもんや。これからもっと強くなるんやからな」

    (*^○^*)「が、頑張るんだ……!!」

    原「さて、それじゃワイは――」

     ガチャリ。

    彡(゚)(゚)「……」

    (*^○^*)「あ……!!」

    おん子「お、お願い……します」

    (*^○^*)「――!!」

    彡(゚)(゚)「ねーちゃん……来たんか!!」

    おん子「あの……入会費とか……その、そーゆーのは……」

    原「……!!」

    原「そんなもん後でええ!! ほな、早く着替えてきぃ!! ほら!!」

    おん子「は、はい……!!」

    彡(゚)(゚)「ねーちゃん、たっぷりしごいてやるで」

    おん子「ねーちゃんじゃねー――おん子だ」

    彡(゚)(゚)「……」

    おん子「それと……私、やるよ」

    おん子「――ボクシング」



     完。


    62 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 10:11:17 ID:TI5

    イッチ乙
    続きも読みたいンゴねぇ…


    63 :名無しさん@おーぷん :2015/11/29(日) 10:11:17 ID:TI5

    引用元:http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/livejupiter/1448723767/