2016/12/15(木) 04:02:20

※武内Pは不在ですが、舞台は346です。
※アニメ寄りの設定が苦手な方はお避け下さい。
※前半は真面目です。

※ ※ ※ ※ ※



  2016/12/15(木) 04:02:36

美城プロダクション 本社本棟前にて

警備員「おや。こんにちは、仁奈ちゃん。また探検かい? 敷地の外に出ちゃダメだよ」

市原仁奈「はい! でねーです」

警備員「いつもお疲れ様」

仁奈「お疲れ様でごぜーます!」

※ ※ ※ ※ ※


  2016/12/15(木) 04:03:34

社内談話室にて

渋谷凛「いないって、どういうこと? 朝のレッスンの時はいたんだよね!?」

三船美優「え、ええ、その時は確かに……」

森久保乃々「そのあとみんなで談話室まで帰ってきて……」

神谷奈緒「気が付いたら、もう姿が見えなかったってことか……」

イヴ「もしかして〜、迷子でしょうか〜」

岡崎泰葉「慣れた場所ではありますが……この広さです。ありえなくはないですね」

前川みく「このプロダクション、ムダに広いからにゃあ……」

神崎蘭子「彷徨えし幼き魂は鋼鉄の監獄より解き放たれざるか否か……」
(会社の外に出ちゃったりしてないでしょうか……心配です)


  2016/12/15(木) 04:05:40







https://imgur.com/NzAJApm.jpg


  2016/12/15(木) 04:05:56

美優「いえ、ひょっとしたら……」

みく「? 何か心当たりがあるのかにゃ?」

美優「迷子じゃなくて……家出……とか?」

奈緒「へっ!? な、何を唐突に……」

凛「そんな……家出なんて……ねぇ?」

乃々「そもそもここはお家じゃありませんし……」

泰葉「そうです。それに家出……ここが嫌で出て行くなんて……理由がないじゃないですか」

美優「う……そ、それは……私が……」

凛「えっ!? 何かあるの!?」

美優「その……実は先日……長年の努力が実って、ついに仁奈ちゃんが私の事を『ママ』って呼んでくれたんです。
それが嬉しくて、つい、毎日何度も何度も、事あるごとに繰り返し『ママ』と呼ばせたのが……原因なのかもしれません……」

乃々「うわぁ……」

奈緒「お、重い……」


  2016/12/15(木) 04:07:04










  2016/12/15(木) 04:07:11

凛(楓さんやちひろさんや、千枝ちゃんのこともそう呼んでたけど……言わない方が良さそうだね……)

泰葉「いえ、そういうことなら……私が原因かもしれません」

凛「えっ!? 泰葉も何か心当たりがあるのっ?」

泰葉「先日、仁奈ちゃんとお仕事でご一緒した時、空き時間に、つい、プロとしての心得、仕事をする上での信条などについて、議論をしてしまったんです」

乃々「幼女相手にですかっ!?」

泰葉「熱くなってしまい、なんたかんだで1時間以上も……」

凛「大人気ないよっ!?」

泰葉「素晴らしく芯の通った考え方で、仁奈さんには色々と学ばせていただきました」

凛「さん付けっ!?」

奈緒「仁奈ちゃんすげーっ!!」

泰葉「もしかしたら、あの時の私の絡み方が不快で……今日も本当は、一緒に居るのが辛かったのかもしれません……」

凛「か、考え過ぎだと思うけど……」

蘭子「げに恐ろしきは、その身に内包したる禍々しき闇の力よ」
(仁奈ちゃん、すごいですねぇー)


  2016/12/15(木) 04:09:12





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  2016/12/15(木) 04:09:21

奈緒「い、いや、待てよ? ……そういう話だったらあたしにも少し心当たりが……」

凛「奈緒にもあるのっ!?」

奈緒「いや、たぶん関係ないとは思うんだけどさ……先週から仁奈ちゃん、あたしと一緒に深夜のニチアサアニメ ブルーレイ耐久6時間一気視聴に挑戦してて……」

凛「6時間っ!? 軽く虐待だよっ!」

奈緒「まだ「ふたりは」の後半なのに…」

乃々「全シリーズ通して見る気ですかっ!?」

奈緒「ナージ◯も……」

乃々「ナー◯ャもっ!?」

泰葉「ナ◯ジャ、面白いですよ?」

美優「泰葉ちゃん!?」


10   2016/12/15(木) 04:09:58

イヴ「あ。そういうことなら〜。仁奈ちゃんがいなくなった理由、私にも心当たりがあるかもしれません〜」

乃々「い、イヴさんまで?」

イヴ「少し真面目な話なんですが〜。私、仁奈ちゃんとの約束を〜破っちゃったんです〜」

乃々「や、約束?」

凛「深刻そうだね」

奈緒「良かった。あたしのせいじゃなかったんだな」

凛「奈緒は奈緒で自粛する」

奈緒「……はい」

イヴ「実はおととい〜、冷蔵庫の奥に蘭子ちゃんがプリンを隠しているのを発見したんです〜」

蘭子「!?」

イヴ「それを〜、一緒に食べようねって仁奈ちゃんと約束したにもかかわらず、うっかり私が一人で食べてしまったのが〜、ショックだったのかもしれません〜」

蘭子「なんでっ!?」

イヴ「ついお腹がすいて〜」

蘭子「んもぉぉぉぉっっ!」

奈緒「そもそもアイドルが人のプリンを盗み食いすんなよ」

イヴ「無意識的に〜」

奈緒「そんなわけあるかっ!」

イヴ「けどトップアイドル的にはよくあることだって〜」

奈緒「ねーよ!」


11   2016/12/15(木) 04:10:33

イヴ「そのお詫びとして〜、今日は専門店のぷりんロールケーキを買ってきました〜。みんなで食べましょう♪」

蘭子「わーい♪」

凛「蘭子はそれでいいんだ……」

イヴ「蘭子ちゃんには表面パリパリ、中とろとろの極旨カッププリンもありますよ〜」

蘭子「イヴさん、だいすきっ!」

みく「蘭子チャン蘭子チャン! 喋り方喋り方!」

乃々「単純ですね……」

泰葉「いや、それよりも、皆さん!
誰のせいかはまだ分かりませんが、みんながみんな、仁奈ちゃんに負担をかけ過ぎです。反省して下さい!」

凛「…………」

泰葉「…………」

凛「…………」

泰葉「……はい。私もですね。反省します」

美優「ああ……仁奈ちゃん……どこに行ってしまったのでしょうか……帰って来て下さい……」

蘭子「一番おっきいの! おっきいの下さい!」

凛「そこ! ロールケーキ切り分けない! 先に仁奈を探しに行くよっ!」

乃々「無事だといいんですが……」

※ ※ ※ ※ ※



12   2016/12/15(木) 04:11:00

社内中庭にて

長富蓮実「困りましたね……」

蓮実(余裕を持って早めにアパートを出たにもかかわらず、面接の予定時刻までもう30分を切ってしまいました)

蓮実「まさかプロダクションの敷地内で道に迷ってしまうとは……。
第3分棟のCルームにて集合、と書かれてもそれがどこなのか見当もつきません……」

蓮実(先日、オーディションで来た時は、志望者が数十人はいた為、駅から集団について行くだけで試験会場まで辿り着けましたが、今日はそれらしき姿が全く見当たりません)

蓮実(第一次オーディション通過の連絡を受け取った時は、まだその事実の重さをあまり理解できていませんでしたが、ここにきてようやく実感します)

蓮実(書類審査を経ての先日の試験。その時点で大多数の方が落とされてしまったということでしょう)

蓮実(さすが天下の美城プロダクション。
アイドル部門の歴史が浅いとは言えども、その試験が狭き門である事には違いないようです)

蓮実「いえ、今はそれ以前の問題です」


13   2016/12/15(木) 04:11:59







14   2016/12/15(木) 04:12:06

蓮実(いくら狭き門をくぐり抜けても、肝心の次の試験会場に辿り着けなければ意味がありません)

蓮実「誰かに道を聞ければ良いんですけど……。あらっ?」

蓮実(ふと、視界をモコモコとした物体が横切ります。
モコモコとした毛玉……あれは女の子でしょうか?
そう言えば先程から何度も見かけていたような気がします。 つまりは……)

蓮実「あなたも迷子ですか?」

仁奈「う?」

蓮実(振り向いたモコモコの獣は小さな女の子でした。大きな瞳と前髪ぱっつんの髪型がとても愛らしい。見目好い少女です)

仁奈「迷子の気持ちになるですよ……。おねーさんも迷子でやがりますか?」

蓮実(独特の言葉遣いのその子は悲しそうな目で私を見上げます)

蓮実「ええ、そうなんです。一緒ですね?」

蓮実(屈み、そっと頭を撫でてあげると、その子は、ぱっと瞳を輝かせ、私にこう言ってきます)

仁奈「仁奈はあそこに行きてーのです!」

蓮実「仁奈ちゃんっていうお名前なんですね。あそこって……あの一番大きな建物ですか?」


15   2016/12/15(木) 04:15:14





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16   2016/12/15(木) 04:15:45

仁奈「はい!」

蓮実(指差した先には大きな時計の付いた建物が。少し距離はありますが、かなりの存在感です)

蓮実「見えてるのに行き方がわからないのですか?」

仁奈「目的地がちゃんと見えているからって、迷子にならねーとはかぎらねーのです」

蓮実「な、なるほど?」

蓮実(なぜドヤ顔なんでしょうか……)

蓮実(前髪を少し直すふりをしながら、私は考えを巡らし、自問します)

蓮実(さて、どうしましょう。目の前には小さな迷子の女の子。今、自分は長年の夢だったアイドルになるための試験会場に向かっている。それでいて自分もまた同じく、さまよい人)

蓮実(遠方の時計が示す時刻は、刻一刻と私のタイムリミットに迫ります。
普通に考えて、自分のことが最優先、まず面接会場を探すべきです)

蓮実(しかし先程から、さまよっていた私やこの娘に、敷地内の社員さん達は誰一人として声をかけて来なかったのもまた事実)

蓮実(私のことはともかく、こんな小さな娘が孤独に立ちすくんでいたら、声をかけてあげるのが人情というものではないでしょうか)

蓮実(田舎から出て来たばかりの私が言うのは生意気かもしれませんが、ここの人達は都会で大事な何かをなくしてしまっているのではないかと思います)

仁奈「おねーさん?」


17   2016/12/15(木) 04:16:03

蓮実「はっ。すみません。少し考えごとをしてしまいました。
そうですね……。えーっと……仁奈ちゃん?」

仁奈「う?」

蓮実「私は長富蓮実っていいます。よろしくお願いします」

仁奈「仁奈は仁奈っていいます! 市原仁奈です! よろしくおねげーします!」

蓮実「はい。お願いします♪ では、行きましょうか?」

仁奈「はいでごぜーます!」

蓮実(仁奈ちゃんは私が差し出した手を迷わず掴み、満面の笑顔で尋ねます)

仁奈「仁奈をあそこに連れて行ってくれやがるですかー?」

蓮実「ええ、もちろん。一緒に行きましょう」

蓮実(少ししっとりした彼女の手を握りしめ、私は自答します)

蓮実(少なくとも私は、自分の都合で、こんな小さな子を見捨てるような人には……そんなアイドルにはなりたくないのだ、と)

※ ※ ※ ※ ※


18   2016/12/15(木) 04:16:27

蓮実「仁奈ちゃんはここの着ぐるみアイドルなんですね」

仁奈「はい。そうでごぜーます」

蓮実(道理で最初見た時、どことなく見覚えがあったはずです。私の地元のテレビでも見る機会があるくらいには有名な売れっ子アイドルさんだったんですね)

蓮実「仁奈ちゃんは着ぐるみが好きなんですか?」

仁奈「大好きです! 着ぐるみを着ると、色んな動物のきもちになれるです。
みんなもいっぱい可愛がってくれやがりますし、仁奈はとってもとっても幸せになれるですよ」

蓮実「なるほど。ただ衣装に身を包むだけじゃダメなんですね。その衣装に合わせた心構え、気持ちが大切だと」

蓮実(そして……みんなに可愛がってもらえる……。その言葉が私の心に引っ掛かります)

蓮実(ここ数ヶ月、親元を離れ東京のオーディションを幾つか受けて回っている間に、私は今までなかった迷いのようなものを持つようになっていました)

蓮実(幼い頃から母と目指し、支えられ、遂にここまで来た。アイドルは私の幼い頃からの夢であり、母の夢でもある)

蓮実(しかし、幼い頃からの夢であるがゆえに、漠然と、ただアイドルになりたいという思いが先行し、どういったアイドルになりたいのか、自分がどうなりたいか。なってどうしたいのか……それが分からない。
漠然とした目標だけで、具体的な展望がまったく見えない。そんな状態になってしまっていたのです)


19   2016/12/15(木) 04:17:03

蓮実(アイドルになりたい。その気持ちに偽りはない。
でもたぶん…きっと…それだけでは足りないのでしょう)

仁奈「蓮実おねーさんは、ママみたいで、安心するでごぜーます。 ふいんきが!」

蓮実「ふふっ……。雰囲気ですね」

仁奈「あったけーです!」

蓮実(ママみたい……か)

仁奈「う? 何しやがりますか?」

蓮実(着ぐるみの縁をなぞるように仁奈ちゃんの頬を撫で、思う)

蓮実(展望など、望む自分の姿など、そうそう見つかるはずもない。
しかし、この仁奈ちゃんを見ていると……あなたのその透き通った瞳を見ていると……)

蓮実「みんなに可愛がってもらいたい。そんなシンプルな欲求に身を委ねるのもいいのかもしれませんね」

蓮実(可愛いと言ってもらいたい。可愛がってもらいたい。それは女の子がみんな、生まれながらにして持つ欲求です)

蓮実「欲張りなのは生まれつき、ですね」

仁奈「?」

蓮実「こっちの話です。ところで仁奈ちゃん、この着ぐるみはオオカミさんですか?」

仁奈「!! その通りでごぜーます! よく分かりやがりましたね! みんなワンちゃんって間違いやがるですよ!」

蓮実「ふふ。やはりそうでしたか。
そうですね。一見ワンちゃんのようにも思えますが、そのフワフワに見えて、どこかワイルドさを感じさせる力強い毛並み、
愛らしさを残しながらも野生を感じさせる鋭い目つきは、飼い犬などではない、野生の一匹狼の風格です」

仁奈「すげー! なんで分かりやがるですか! 蓮実おねーさん、ただ者じゃねーですね!」


20   2016/12/15(木) 04:17:41

蓮実(目を輝かせ、はしゃぐ仁奈ちゃんを見ながら、ふと、そういえば少し前までは私や仁奈ちゃんを見て見ぬ振りしていた敷地内の社員の方々が、今は遠巻きながらも暖かい視線を送ってきているように感じ、少し居心地悪く、むず痒くなります。
気のせいだといいのですが……)

蓮実「えへん。孤独な誇り高き狼。毛色からしておそらくニホンオオカミでしょう。絶滅の危機にありながらも闘い続ける気概が感じられます」

仁奈「……そこまでは考えてなかったのですよ」

蓮実「あら?」

仁奈「でもそれもいいでごせーますね。仁奈は今日からニホンオオカミで一匹狼でごぜーます!」

蓮実(だから迷子になっていたのでしょうか。いえ、さすがに迷子になることを見越してまで衣装選びをしているとは思えませんが……)

蓮実「あ、ほら、仁奈ちゃん。あの建物が近付いてきましたよ」

蓮実(目の前に迫る大時計の建物を示し、そう語りかけます)

蓮実(建物の前には警備員さんらしき人が立っていて……あ、こちらに気付かれたのでしょう、仁奈ちゃんに向かって手をあげ、微笑みかけてきました)

仁奈「蓮実おねーさん。今日はありがとうごぜーました。
おねーさんはいい人でごぜーます。きっと素敵なアイドルになりやがるですよ!」

蓮実「ふふ。ありがとう。そしてどういたしまして♪」

蓮実(仁奈ちゃんは私の手を離し、警備員さんの方へと走って行きます)

蓮実(私は仁奈ちゃんのぬくもりがなくなった手を振りつつ、彼女が警備員さんのズボンを引っ張り、笑顔を向けるのを眺めます)

蓮実「無事仁奈ちゃんを連れてくることができた……けど、そろそろ時間が……もう間に合わないかな」

蓮実(時計の針は二本とも一番高い所、舞踏会を去らねばならない時間を指し示そうとしていました)

蓮実(しかし、そんな時)


21   2016/12/15(木) 04:18:11

警備員「あー、ちょっと、キミ?」

蓮実(諦観と不思議な満足感に立ちすくむ私の所に、先の警備員さんが歩み寄ってきます)

警備員「今日、面接の子だよね? 行き方が分からないなら案内するよ」

蓮実「!! あ、ありがとうございます。で、でももう時間が……」

警備員「……あー。噂だと面接担当のプロデューサーさんが私用で少し遅れてるみたいなんだ。だから今ならまだ間に合うと思うよ」

蓮実「ほ、ほんとですかっ!? で、ではお願いしますっ!」

蓮実(勢い良く頭を下げ、道案内をしてもらえるよう求めます)

警備員「そ、そんなにかしこまらないで。大したことじゃないから……。今時珍しい、礼儀正しい子だなぁ……」

蓮実(こっちだよ、と先導して下さる警備員さんについて行きながら、ふと後方を振り返ります)

仁奈「…………」

蓮実(遠くから私を見送る仁奈ちゃんが、一瞬、優しく微笑んだような気がしました)

『おねーさんはいい人でごぜーます。きっと素敵なアイドルになりやがるですよ!』

蓮実「そう言えば私、アイドル志望だってこと、仁奈ちゃんに言ったでしょうか……?」

蓮実「…………」

蓮実(……考え過ぎ……かな?)

蓮実(一周遅れの鐘が鳴り響く中、私は面接会場に向かうのでした)

蓮実(パーティーはこれから、です)

※ ※ ※ ※ ※


22   2016/12/15(木) 04:18:35

美城プロダクション社内 専務個室

私は行き詰まっていた。
仕事の話ではない。
プロデュースしているアイドルは皆、日々活躍の場を広げており、順風満帆といって差しつかえない。
行き詰まっているのは、人間関係の話だ。

私はこれまで仕事は仕事と割り切り、身内には厳しく、ドライに接するよう心掛けてきた。
それ故に可能であった決断も多くあり、それ自体が間違っていたとは思わない。
しかし、ここにきて思うのだ。
私には気の置けない人物、すなわち信頼し、本音をぶつけられる相手がいないのではないか、と。
私は有能だ。万能に近いと言っても過言ではない。しかし、厳密に万能ではない以上、一人で出来ることには自ずと限界がでてくる。
ぶっちゃけ、悩みもするし、誰かに頼りたくもなる。
しかし、その相手がいないのだ。

「私の何がいけないのだろうか……」

社内自室で独り呟いた、その瞬間

ガチャ……キィ……。

何者が無言で部屋の扉を開いたのだった。

※ ※ ※ ※ ※
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23   2016/12/15(木) 04:19:25




24   2016/12/15(木) 04:19:54

美城専務「誰だ! ノックもせずに!」

美城(ひとり言を聞かれたかもしれない。その事実に対する恥ずかしさや、立場的な後ろめたさもあったのだろう。私はいつも以上に刺々しい口調で叱責する)

美城(いや、社会人として、人の部屋にノックもせずに侵入するなど言語道断。この私の叱責は至極正当な……)

仁奈「ひゃうっ!?」

美城「!?」

仁奈「ご、ごめ……っ!」

美城「なっ?」

美城(よりにもよって、私の部屋への闖入者は、このプロダクションで最年少の少女、市原仁奈だった)

仁奈「へ、部屋になんて書いてあるか読めなかったのでごぜーます。
う、うぅ……。
ご、ごめんなせー。すまねーでごぜーます。お、怒らねーで欲しいのです……」

美城「…………」

美城(や、ヤバい。ほぼ泣きかけだ。
少女を……いや、幼女を全力で怒鳴りつけて泣かせてしまった)

美城(これは美城の専務として……いや、人としてかなりアウトなのではないだろうか……)

仁奈「お、おこらねーでくだせー……うぅぅ」

美城「い、市原仁奈! い、いや、に、に、仁奈ちゃん!」

仁奈「ひゃっ……!?」

美城(お、怯えさせてどうするっ! 冷静に、こういう時こそ冷静にだ。
……そうだ。子どもに好かれてる『彼』を……『彼』を参考にするんだ……!)


25   2016/12/15(木) 04:20:04

美城「聞け……い、いや、聞いて下さい、い、市原……さん?」

仁奈「う?」

美城(『彼』のように、低く、優しい声で……)

美城「……怒鳴られて怖かったのか? ……当然の結果です」

仁奈「ふぇっ……!」

美城(ちっがーう! 威圧してどうする! 開き直ってどうする!
相手は子供だぞ。もっと優しく。もっと穏やかに、笑顔で……!)

美城「な、泣くな。泣くんじゃない。そ、そうだ。お菓子をやろう。お菓子をやるから言うことを聞くんだ。いいなっ? ふひっ(笑顔)」

美城(少し不審者っぽくないか? ……き、気のせいだよな?)

仁奈「お、お菓子? ……怒ってねーのですか?」

美城「ああ、怒ってない。仁奈…ちゃんは、きちんとすぐ謝ったからな。もう怒っていない。
ちゃんと謝る事ができて偉いな。ほら。こっちに来なさい。お菓子をあげよう。カステラや飴もあるぞ?」

仁奈「…………」

美城「ほら、怖くない。怖くない。ほらね怖くない……」

仁奈「お……お菓子……」


26   2016/12/15(木) 04:20:52

美城「そうだ。お菓子だ。お、美味しいぞー」

美城(よ、よし。泣き止んで近づいてきたぞ。このままこのまま……)

仁奈「あ。で、でも、ママが知らねー人にお菓子をもらっちゃダメだって言ってやがったです……」

美城「ぐっ……。ほ、ほら。私の顔をよく見てみろ。知らない人じゃないだろう? 覚えてないか? ほら、この会社の……」

仁奈「……あっ!」

美城「な?」

仁奈「じょ……じょ……じょ」

美城「……ん?」

仁奈「じょ……じょ……女王さま?」

美城「それは別の人だ」

仁奈「じゃあ、じょ……じょ……」

美城「常務と言いたいのか? まぁ、それほど間違ってはいない。
だが、色々あって実は先日、昇進してな」


27   2016/12/15(木) 04:21:32

仁奈「しょうしん……?」

美城「ああ。今の私は専務。美城専務だ」

仁奈「シェンムー」

美城「ちがう」

仁奈「美城シェンムー」

美城「やめてくれ」

仁奈「う?」

美城「せ、ん、む、だ」

仁奈「せ、ん、む」

美城「そう。美城専務」

仁奈「美城シェンムー」

美城「なぜだっ!?」

美城(そんな時代を先取りし過ぎて採算が取れなかったが、ギネス級のクラウドファンディングに成功して続編制作中のレジェンドゲームみたいな名前は嫌だ!)

仁奈「シェンムー、お膝の上に乗ってもいいでごぜーますか?」

美城「それでいくのか。構わんが。いや、構わんと言ったのは膝の上の方であって、名前の方はちゃんと……」

仁奈「んしょんしょ……。わぁー。シェンムーの机はでっけーなー」

美城「…………」

美城(まぁ、いいか……)


28   2016/12/15(木) 04:22:01

仁奈「せん…シェンムーはどんなお菓子をもってやがるですかー?」

美城「今専務って言いかけなかったか? なぁ? わざとか? わざとなのか? おい。市原仁奈」

仁奈「わぁーっ! シェンムーの机の中、お菓子でいっぱいでごぜーます! すげーです!」

美城「あ、おいこら。勝手に開けるな。あと、私が甘党のお菓子好きだということは秘密だからな。イメージに関わる。言うなよ。絶対に誰にも言うなよ!」

仁奈「フリでごぜーます!」

美城「違うわっ!」

仁奈「ここのお菓子ぜんぶ食べていいでごぜーますかー?」

美城「全部はダメだ。私のぶん……ごほん。食べ過ぎたら身体に悪いからな。
全部はダメだが、その代わり、どれでも好きな物を食べていいぞ。食べ過ぎない程度に好きな物を選びなさい」

仁奈「はい、でごぜーます! うー。ど、れ、に、し、よ、う、か、なー?」

美城(と、彼女は私の膝の上で身体を揺らしながら、お菓子を手に取り、ひっくり返し、睨みつけ、悩む)

美城(程よい重さの彼女から伝わる体温が心地よい)

仁奈「ドーナツでごぜーます!」

美城「ああ。それを食べても構わないが、ジップ◯ックから取り出したらすぐに食べるんだぞ。
10分もしたらヤツが匂いを嗅ぎつけてやってくる」


29   2016/12/15(木) 04:22:17

仁奈「もがもが。あめーです。あとちょっとかてーです!」

美城「有名ホテルのハードドーナツだ。シンプルな味付けだが、それゆえ、飽きがこない」

仁奈「う?」

美城「ああ、もう。ポロポロこぼして……」

仁奈「あっ。すまねーです……」

美城「私のスーツの事なら構わない。ただ君も…仁奈ちゃんもアイドルであり、レディだ。
これからは食事のマナーにも気を配っていかなければならないな」

仁奈「おぎょーぎ良く! でごぜーますね!」

美城「ああ、そうだ。ってまた、こんなにこぼして……もう……」

※ ※ ※ ※ ※
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30   2016/12/15(木) 04:22:32

ガタッ!

椎名法子「……!!」

中野有香「急に立ち上がってどうしたんですか法子ちゃん?」

法子「……今、ドーナツの悲鳴が聞こえたような気がする!」

水本ゆかり「法子ちゃん、まだお勉強の途中ですよ。私のドーナツ、一口分けてあげますから、座って下さい」

法子「えっ? 本当? けど、一口も食べたら悪いから半分でいいよー♪」

有香「一口>半分なんですね……」

ゆかり「……まぁ、構いませんが……ちゃんと真面目に勉強して下さいね?」

法子「うん。やるやるー♪」

有香「ふふ、やれやれ。まだまだ終わりそうにないですね……コーヒーのおかわり注いできます。ゆかりちゃんの分も」

ゆかり「あっ。すみません……」

法子「んー。おいひー♪」

※ ※ ※ ※ ※


31   2016/12/15(木) 04:23:53










32   2016/12/15(木) 04:23:59

美城「結構な量食べたな……。大丈夫なのか?」

仁奈「お昼ごはんをまだ食べてなかったのでごぜーます。だからへーきです」

美城「それは大丈夫じゃないな。お菓子ばかり食べさせたことがバレたら私がせ…キミの保護者に叱られてしまう。このことは内密に頼むぞ」

仁奈「ないみつ?」

美城「2人だけの秘密ってことだ」

仁奈「2人だけの秘密!」

美城「そう、秘密だ」

仁奈「2人だけの秘密は仲良しのあかしでごぜーます!」

美城「……難しい言葉を知っているな」

仁奈「この前、プロデューサーと卯月おねーさんが、二人きりでそう話していやがりました!」

美城「…………」

美城「……聞き捨てならない気がする。あと、口軽いな市原仁奈」


33   2016/12/15(木) 04:24:23

仁奈「あ。プロデューサーで思い出したでごぜーます」

美城「……なんだ?」

仁奈「専務、この前、プロデューサーと喧嘩してやがりましたねー?」

美城「……そのプロデューサーというのが、どのプロデューサーかは知らないが……心当たりがなくはないな」

仁奈「喧嘩はよくねーですよ。仲良しが一番でごぜーます」

美城「あれは……意見の食い違いによる衝突だ。喧嘩というワケではない……はず」

仁奈「言い訳はだめでごぜーます!」

美城「いや、言い訳というわけでは……」

仁奈「だめでごぜーます!」

美城「…………」

仁奈「…………」

美城「…………」

仁奈「…………」

美城「…………はい」

仁奈「やっぱり専務はいい人でごぜーます!」

美城「……どうだろうな?」


34   2016/12/15(木) 04:24:56

仁奈「プロデューサーと仲直りしないとだめでごぜーますよー?」

美城「それは大丈夫だ。仲良く、とはいかないが最近彼とは何度か呑みに行く機会があってな」

美城(私なり彼のことを……彼の人心掌握術を学ぼうと思い、酒を呑みに行かないかと誘ったのだ)

美城(何とかして彼の技を盗もうとしたが、これがなかなかに手強い。
結局は無口な彼に対して私が一方的に愚痴や説教をこぼし……なぜか酒が進んでしまうようで
……気が付いた時には、泥酔し、彼の肩を借りる羽目になってしまっていたのだ)

美城(そして、不覚にもそれは既に3回ほど繰り返されている)

仁奈「かれって誰でごぜーますかー?」

美城「会話の流れでわかるだろう。おそらく君の言っている『プロデューサー』だよ」

仁奈「うーんと。じゃあ、呑みに行くってなんでごぜーますかー? ジュースとかなら仁奈も行きてーです!」

美城「ジュースではないな。お酒だよ。お酒。大人のお店だ」

仁奈「お酒! お酒は、みせーねんは飲んだらいけねーんですよー?」

美城「その通りではあるが……君には私が未成年に見えるのか?」

仁奈「う? おねーさん。みせーねんじゃねーですかー?」

美城「…………」

美城「……とっておきのリンゴジュースがあるんだが、飲まないか?」

仁奈「飲みてーです!」


35   2016/12/15(木) 04:25:29

美城「青森から取り寄せたものでな。そこらで売ってるものとは甘みも香りも一味違うぞ」

仁奈「なんかうれしそーです!」

美城「……どうだろうな?」

仁奈「ジュース! でっけー瓶に入ってやがります!」

美城(何はともあれ、私もいずれは信頼できる部下……本心をぶつけられる相手を作りたいものだ)

仁奈「みんなが仲良しだと仁奈も嬉しいです!」

美城「…………」

仁奈「ジュースうめーです! なんでごぜーますか! これ! すげーです!」

美城「市原仁奈……アイドルは辛くないか?」

仁奈「う? つらくねーです!」

美城「嫌なことはないか?」

仁奈「ねーです!」

美城「意地悪されたりしてないか?」

仁奈「みんなやさしいです。いっぱい可愛がってくれたり、いっぱいお話してくれたり、
いっぱい一緒にテレビを見てくれたり、いっぱい一緒にご飯やおやつを食べてくれたりしやがります」

美城「…………」


36   2016/12/15(木) 04:25:56

仁奈「みんな大好きでごぜーます。美城専務も好きでごぜーますよ?」

美城「……そうか」

仁奈「専務のお膝は優しくてあったけーです」

美城「そうか……」

美城(…………)

仁奈「えへへっ……くすぐってーです」

美城「よしよし……可愛いな……」

美城(本当に可愛い。……なんというか、実の娘みたいに感じられて、こう……)

美城「……育てたい」

宮本フレデリカ「ぶふっ!?」

美城「!?」

仁奈「う?」

フレデリカ「…………」

美城「…………」

フレデリカ「…………」

美城「…………」

フレデリカ「…………」

美城「……宮本、私の部屋で何をしている? というか、いつからいた?」
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37   2016/12/15(木) 04:26:46




38   2016/12/15(木) 04:27:09

フレデリカ「えーっと? 仁奈ちゃんが行方不明だって凛ちゃんに聞いてー? アタシも協力して色んな所を、さるぶぷれー?」

美城「…………」

フレデリカ「それにー、いつからいたっていうかー? フレちゃんは、いつでもどこでも、あなたのそばにー、心の中にー……みたいな?」

美城「…………」

フレデリカ「…………」

美城「よし。……それは、まぁいい。とりあえず置いておこう。しかし、もう一つ聞きたいことがある」

フレデリカ「どんと来い!」

美城「……君が持っている……構えているその機械はなんだ?」

フレデリカ「スマートフォン! 略してスマホ! ……スマフォ?」

美城「……だろうな。あと、気のせいであって欲しいのだが、それを私の方へ向けて……動画撮影中だったりしないか?」

フレデリカ「してないよ! 盗撮、ダメ、ゼッタイ! 嘘だけど!」

美城「…………」

フレデリカ「…………」

美城「…………」

フレデリカ「…………」ジリ


39   2016/12/15(木) 04:27:15

美城「……すまないが、少し下りてくれないか?」

仁奈「う? しかたねーです!」

フレデリカ「…………!」ダッ!

美城「くっ! おいこらっ!」

フレデリカ「エスカルゴッ!」

美城「エスケープだろっ!」

仁奈「ふた文字しかあってねーです」

フレデリカ「富嶽三十六景逃げるにしかずっ!」

美城「風景画は関係ないっ! 三十六計逃げるに如かずだ!」

仁奈「おおー。鬼ごっこでごぜーますねー!」

美城「いや、待て逃げるなっ、宮本ォ!!」

※ ※ ※ ※ ※


40   2016/12/15(木) 04:27:53

本館 一階廊下にて

泰葉「仁奈ちゃん、見つかりませんねー……」

イヴ「そうですね〜。他の皆さんはどうでしょうか〜?」

泰葉「今の所、連絡はありませんね……。一体どこに行っちゃったんでしょう」

イヴ「う〜ん。館内放送を使って呼び出してもらいましょうか〜?」

泰葉「大ごとになってしまいますが、それもひとつの手かもしれませんね……あら?」

イヴ「どうかしました〜?」

泰葉「何か……この館内、騒がしくないですか?」

イヴ「そう言えば〜、何やら破壊音や悲鳴やらが〜?」

バッ!

フレデリカ「ゴメンねっ!!」

泰葉「きゃっ!?」

イヴ「えっ?」

フレデリカ「みんなどいてどいて〜!」

泰葉「ふ、フレデリカさん? な、なんで廊下を全力疾走……!?」

イヴ「凄いスピードで走って行っちゃいました〜。お仕事の時のブリッツェンみたいですね〜」

泰葉「ふ、フレデリカさーん! 廊下を走ったら危ないですよー! プロデューサーさんや専務にも怒られ…」

バッ!

美城「待てぇぇっ! 宮本ぉぉぉっ!!」

泰葉「ふぇっ!?」

イヴ「ひゃあ!?」


41   2016/12/15(木) 04:28:20

美城「逃げるなぁぁぁぁっっ……!!」

泰葉「なっ? ななな、なんで美城専務まで全力疾走っ!?」

イヴ「凄いですね〜。猛スピードでフレデリカさんの後を追っかけて行っちゃいました〜。二日ぶりのご飯に飛び掛かるブリッツェンみたいです〜」

泰葉「た、確かにそんな感じでしたけど! なんでいちいちトナカイに喩えるんですか? そもそもご飯はちゃんと毎日あげて下さい!」

イヴ「私もクリスマスが近づいてくると毎日は食べられませんし〜」

泰葉「ええっ、プレゼント自腹っ!?」

イヴ「それにしても今のあの二人、何があったんでしょうか〜?」

泰葉「し、知りませんよ……。でも、なんでしょう……碌でもないことが起こってる気がします……」

イヴ「……ところで〜雑草って美味しいんでしょうか〜?」

泰葉「……それはブリッツェンの話ですよね?」

イヴ「お腹すきました〜」

泰葉「ブリッツェンの話ですよね!?」

イヴ「ぷりんロールケーキ食べたい……」

泰葉「まずまともな食事を摂りましょう!?」

※ ※ ※ ※ ※


42   2016/12/15(木) 04:29:10

第2分棟 廊下 エレベーターホールにて

凛「見つからない……か」

乃々「どこに行っちゃったんでしょう……」

美優「ああ、仁奈ちゃん……。心配です。戻ってきて下さい……せめて無事で……仁奈ちゃん……」

仁奈「呼んだでごぜーますかー?」

凛「に、仁奈ちゃんっ!?」

美優「……っ!?」

乃々「い、いつの間に……」

仁奈「今、ここに来やがりました!」

凛「無事だったんだね……。もう! みんな心配したんだよ!」

美優「仁奈ちゃんっ!!」

仁奈「わぷっ?」

美優「ああ、仁奈ちゃん仁奈ちゃん……っ! 無事で良かった。仁奈ちゃんっ!」

仁奈「む、むぐぅ。く、苦しいでこぜーます。モフり過ぎでごぜーます」

凛「……ふぅ。結局ただの迷子か……。まぁ、良かった……のかな」

乃々「そもそもどこに行ってたんですか。かなり探し回ったのに、全然見つからなかったんですけど……」


43   2016/12/15(木) 04:29:48

仁奈「う。すまねーです。お庭に出たり、専務の所に行ってたりしてたのでごぜーますよ……」

凛「専務って、あの美城専務? なんでそんな所に……」

仁奈「迷子の気持ちになるですよ!」

乃々「意味がわからないんですけど……」

美優「専務と仁奈ちゃん……。ま、まさか……。専務も仁奈ちゃんを娘にしようと狙って……!」

乃々「それはないと思うんですけど……」

凛「美城専務……。はっ!? そういえば最近あの人、プロデューサーに近づいて誘惑してるって噂が……。
もしかしたらあれも本当で、仁奈ちゃん共々プロデューサーを自分のものにしようと狙って……!」

乃々「そ、それもないと思うんですけど……。どういう発想ですか。確かに何度か一緒にお食事に行ったりしてるみたいですけど……」

凛「えっ、そうなの!?」

美優「ということは、実は既にお付き合いしていて、その上で仁奈ちゃんを養子に……とかっ!?」

乃々「ないです。そもそもあの二人が彼氏彼女の関係に、なんて想像もできないんですけど」

仁奈「う? 専務、プロデューサーのことを『かれ』って言ってたでごぜーますよー」

凛・美優・乃々「!!?」
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44   2016/12/15(木) 04:29:58

仁奈「あと、よくわからねーですが、『色々あって』『しょうしんした』とも言ってやがりましたー」

凛「か、彼と」

美優「色々あって……」

乃々「傷心した……!?」

仁奈「なにやら悩んでやがりましたねー。おとなは大変でごぜーます」

凛・美優・乃々「…………」

凛(美城専務がプロデューサーと付き合ってたけど……)

美優(色々あって、フラれて……)

乃々(傷心している……ってことなんでしょうか……)

凛・美優・乃々(いつの間に……)

凛「そ、そっか……。それならまぁ、仁奈ちゃんを愛でて癒されたいって気持ちも分からなくはないかな?」

美優「専務も苦労されてるんですね……」

乃々「お、大人の世界なんですけど……」

仁奈「う?」

ギャアー。ウワーッ!?

凛「あれ? なんか向こうが騒がしくない?」

ガシャーン! ギャーッ!?

美優「本当ですね。凄い物音が……」

バッ!!

乃々「……えっ!?」

塩見周子「乃々ちゃん、頭上ごめんねっ!!」


45   2016/12/15(木) 04:31:13




46   2016/12/15(木) 04:31:24

※ ※ ※ ※ ※

後日、捜査員の質問に、森久保乃々は当時を振り返りながらこう呟く

乃々「まるで、銀色の狐のようでした……」

と。

彼女の頭上を駆け抜けたのは一筋の銀光。白き頭髪を風になびかせる、細身の少女、塩見周子。

陽の光をも霞ませる少女は、そのしなやかな動きで、人をかすめ、障害物をかい潜り、獣のように駆け抜ける。

周子「なんなん、なんなん、なんなん!? フレちゃん、これどういうことーっ!?」

森久保乃々の心を奪った気高き銀狐は、そう高々と鳴き、鋼の牢獄を飛び出して行った。


47   2016/12/15(木) 04:31:54

※ ※ ※ ※ ※

後日、捜査員の質問に、渋谷凛は当時を振り返りながらこう呟く

凛「まるで、漆黒の弾丸のようでした……」

と。

彼女の耳元をかすめたのは一発の弾丸。黒き頭髪を風になびかせる、長身の麗女、美城専務。

纏う空気ですら周囲を圧倒する彼女は、その遠慮のない動きで、人々を巻き込み、障害物を蹴散らしながら、兵器のように突き抜ける。

美城「ごるぁーっ! 逃げるなぁぁっ! そのスマホ置いてけ、塩見ィィィィィッ!!」

渋谷凛の心を奪った光食らう弾丸は、そんな轟音を上げ、鋼の牢獄から解き放たれて行った。


48   2016/12/15(木) 04:32:16

※ ※ ※ ※ ※

後日、捜査員の質問に、三船美優は当時を振り返りながらこう呟く

美優「ええ、そうです。専務は……プロデューサーさんにフラれて、壊れてしまったんです……」

と。


49   2016/12/15(木) 04:32:46

※ ※ ※ ※ ※

因果応報という言葉がある。
積み重ねた罪、悪事はいずれ必ず自分に返ってくる、そういった意味合いの言葉だ。

この今の自分の状況は、これまで生きてきて重ねた罪業への報いなのだろうか。

全身から汗を噴き出し、涙を浮かべ、足りない酸素を求め喘ぎながら、彼女は……鷺沢文香は走り続ける。

鷺沢文香(自分が何をしたのだろう。どんな悪事を働けばこんな仕打ちを受けるのだろう)


50   2016/12/15(木) 04:33:12


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51   2016/12/15(木) 04:33:18

美城「さぎさわぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

スリットを引き裂き、ヒールを踏み折り、血走った目でアスリート走りを決めながら、美城専務が後方に迫る。

美城「止まれぇぇぇぇぇぇっ!!」

なんだろう。なんなんだろう。なんかもう、とりあえず。

文香「怖いぃぃぃぃっっ!?」

握りしめたスマートフォンを投げ捨てる、という選択肢すら思いつかぬまま、文学少女は必死にその足を動かし続ける。

文香の脳裏に浮かぶのは、か弱くかすれる、少女の言葉。

「これを持って逃げて……。このスマホに私たちの未来が……プロジェクトのみんなの未来が掛かっている……らしい……かも」

「私は……もうダメ……。無理よ……助からない……だから……あとは……おねが……い……」

「…………」

彼女の犠牲を……散っていった北条加蓮の命を無駄にはできない。

彼女から引き継がれたこの運命のバトンを、必ずや無事に守り抜くのだ……!

たとえ息があがり、胸が痛み、脚が棒のようになろうとも、自分は諦めるわけにはいかない。諦めてはいけない……! 絶対に……!

しかし……!

文香「ごめんなさい……。もう……もう、走れません! 脚が……! もう、無理です……。私にはもう……」

意識が混濁する。

意志はある。気持ちはある。諦めたくない。絶対に諦めたくない。みんなを護りたい。

しかし、もう身体がついてこない。目の前が真っ白になる。光に包まれ、何も見えなくなる。

終わる。終わってしまう。自分の夢が。みんなの夢が。光に飲まれ、消えてしまう。

もう護れない。

ごめんなさい。ごめんなさい……!

だが、その最後の瞬間。絶望の刹那。

天使が舞い降りた。


52   2016/12/15(木) 04:33:39

※ ※ ※ ※ ※

橘ありす「何なんですかぁ、一体ぃぃぃっ!?」

専務「ニゲルナァァァァァッッッ!!」

ありす「逃げますよ! 何なんですか、この状況はぁぁっ!!」

専務「オカシヲ! オカシヲアゲルカラ! トマレェェェェッ!!」

ありす「変質者ですかっ! 止まりません! ていうか怖過ぎて止まれませんっ!!」

専務「アリィィィィィィィィィス!!」

ありす「橘ですっ!!」

専務「ハクシニモドォォォォォォォス!!」

ありす「鳴き声!? 意味がわからない!」


53   2016/12/15(木) 04:34:31




54   2016/12/15(木) 04:34:41

※ ※ ※ ※ ※

第四分棟 廊下にて
階下の専務とありすを見下ろしながら

難波笑美「あ、あれは韋駄天ミシロっ!?」

奈緒「し、知っているのか、エッミ!?」

笑美「その昔、専務がまだ女子校生やった頃、すなわち菜々さんが17歳やった頃……箱根のとある大きな大会での話や」

奈緒「お、おう」

笑美「インハイの最中、美城女学生は集団接触事故に巻き込まれ、落車。一気に最下位に転落してもうたらしい」

奈緒「落車って……何から?」

笑美「にもかかわらず、立ち上がり、奮起した彼女は、その直後、猛烈な勢いで追い上げ、奇跡の100人抜きを達成!」

奈緒「いや、100人って……化け物か!」

笑美「お願いシンデレラを声高々に唄いながら爆走する様は、妖怪10連回しと呼ばれ、伝説になったという話や!」

奈緒「怖っ!? ていうか韋駄天じゃなかったのかよ! あと、元ネタが分かりにくい。多分、層的に、ほとんど弱ペ◯知らねーよ!」

笑美「……よし! ちとクドイが、丁寧でええツッコミや!」

奈緒「う、うるせー!」

笑美「いやぁ、それにしてもあれ、よう逃げるなぁー」

奈緒「……小学生なのに、ありす、かなり速いよな」

笑美「ありすはダンスやってっからな!」

奈緒「ここのアイドルはほぼ全員やってるけどな」

笑美「ありすは前世からダンスやってっからな!」

奈緒「全然前世の意味がわからないな」

笑美「中のh」

奈緒「やめい!」スパーン!


55   2016/12/15(木) 04:35:20




56   2016/12/15(木) 04:35:28

笑美「どっからハリセンをっ!? やるなぁ! ほんま、ええツッコミやっ!」

加蓮『何やってんのよ……』

奈緒「おわっ? か、加蓮!? い、いや、偶然会って……ひと通りボケるからツッコンでくれって言われてさ……」////

加蓮『本当にツッコミ気質なんだから……』

奈緒「し、仕方ないだろっ!」

笑美「なぁ、奈緒はん? さっきから誰と話しとるんや?」

奈緒「えっ?」

笑美「 いや、誰もおらんところに向かって何ゆーとんのかなー、と。 ほんま、おもろいなぁ、自分」

奈緒「えっ? いや、だって、加蓮……えっ!?」

笑美「ほな、あのまま放っておくんも寝覚め悪いし、ちっと、止めにいってくるわ」

奈緒「いや、あの、その……これ……」

加蓮『…………』

笑美「ほな、また後でなー」

加蓮(霊体)『…………』

奈緒「…………」

奈緒「…………えっ?」

※酸欠加蓮(本体)は偶然通り掛かった奏の応急処置(R-15)で蘇生し、無事でした。


57   2016/12/15(木) 04:36:06


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58   2016/12/15(木) 04:36:31

※ ※ ※ ※ ※

笑美「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」

上田鈴帆「だぁぁぁぁぁっ!?」

西園寺琴歌「きゃぁぁぁぁぁっ!?」

みく「にゃぁぁぁぁぁっ!?」

ありす「ああっ!? みなさんが巻き込まれて!」

美城「モドォォォォォォォッスッ!!」

ギュリ!!

ありす「なっ!? なぜ四つん這いにっ!?」

ギュオッ!!

ありす「なんでそれで加速できるんですかっ!!」

間中美里「まさか……」

他社P「暴走……!?」

美里「ちょっちヤバくない?」

奈緒「……◯ヴァというよりかは、どちらかっつーとカオナシとかダマっぽいなー」

菜々「懐かしいですねぇ……」

加蓮『なんの話よ……』

ありす「いやぁぁぁぁぁぁっ!?」

ザカザカザカザカ!

美城「オオオオオオオオオ!!」

ありす「擬音がおかしいですっ!!」


59   2016/12/15(木) 04:37:29







60   2016/12/15(木) 04:37:35

※ ※ ※ ※ ※

千川ちひろ「あれ? 今朝、Pさん達に差し入れたドリンクの濃度……ちょっと濃過ぎたかも……。エナチャの30倍……ま、いっか」

※ ※ ※ ※ ※

神崎蘭子は動けずにいた。
目の前の惨劇にただただ硬直し、立ちすくんだ。

悪に憧れたことはある。堕天使や魔王を名乗るのは、天使や勇者を名乗るとの同じくらい楽しく、心踊った。

しかし今は、闇そのものを前に、ただ恐れ、真なる魔王が如何に邪悪なものであるのか、身を以て実感していた。

美城「ドケェェェェェェェ!!」

笑美「ぐわぁぁぁぁぁぁ!?」(リアクションが納得いかなかったので再挑戦)

上田鈴帆「だぁぁぁぁっ!?」(同じく)

西園寺琴歌「きゃぁぁぁぁぁっ♪」(楽しかったらしい)

輿水幸子「ふぎゃぁぁぁぁっ!?」(通りすがり)

戦友(とも)が散っていく。

無垢なる少女に迫る黒き絶望……闇の具現の前に立ち塞がるも、敢え無く力尽き、散っていく。

ザカザカザカザカザカ!

ありす「嫌ぁぁぁぁぁっ!?」

美城「ヴアアアアアアアッッッ!!」

少女と闇の王。その距離は縮まり、最期の瞬間(とき)を迎えようとしていた。

神崎蘭子を無力に震え、ただ叫ぶ。

少女を思い、ありすを想い、感情を溢れさせる。

真珠の様な涙を流し、胸の奥から、心の奥底から、悲鳴のように声を上げる。

蘭子「闇に飲まれよぉっ!!」
(訳:お疲れ様です)


61   2016/12/15(木) 04:38:01

※ ※ ※ ※ ※

第3分棟にて

ガラッ

蓮実「ありがとうございました!」

蓮実(無事面接が終わりました)

蓮実(プロデューサーさんは強面の方で(なぜか目も血走っていて)、少しだけ緊張しましたが、面接自体はとても好感触だったような気がします)

蓮実「ここまで上手くいったのは初めてかもしれません」

蓮実(あの仁奈ちゃんという子に出会い、話して、気持ちが落ち着いたお陰でしょう)

蓮実「それに……」

蓮実(プロデューサーさんもちょっと無愛想だけど、渋くて素敵な方でした。
その上、格好良いだけでなく、古今東西様々なアイドルにお詳しいようで、私の少しレトロな趣味にもとても理解を示して下さいました)

蓮実(ああいう理解あるプロデューサーさんに導かれたら、きっと素敵なアイドルになれるに違いありません。
是非ともこのプロダクションに入りたい。絶対ここに合格したい。そして……)

蓮実「合格したら……またお話ししたいなぁ。……あら?」

美城「はぁはぁはぁ……。や、やっと捕まえた。もう逃がさんぞ」

ありす「ううう……!」

美城「こ、こら。お、お菓子、お菓子を買ってやると言っただろう。暴れるな……暴れるなよ」ハァハァ


62   2016/12/15(木) 04:38:33

ありす「ごめんなさい。文香さん、フレデリカさん……護ることが……できませんでした……」ヒックヒック

美城「な、泣くんじゃない」

蓮実「…………」

ありす「許して下さい。ごめんなさい。ごめんなさい」

美城「い、いや。だから」

ありす「私が不甲斐ないばかりにぃ……。ふぇぇぇ……」

美城「な、泣くなと言ってるだろう。周りの目が……ん?」

蓮実「…………」

美城「君は……確か今日面接の……はっ!? そ、その目はなんだっ? い、いや。違う。違うぞ!?」

蓮実(えっと、確かにこちらのカバンに)

美城「ご、誤解だっ! わ、私は少女を情欲に任せて襲うような変質者じゃないぞ!」

蓮実「あ。そういえば面接中は電源を切ってあったんでした」パカッ

美城「ガラケー!? いや、そうじゃない。とりあえず、その携帯をしまえ! 話せばわかる。話せばわかるぞ!」

ありす「きゃっ!?」

美城「わ、私はただ、このスマホを取り返そうと……いや、私のものではないが、奪いとって、ちょっとデータを消そうと思っただけでだな……!」


63   2016/12/15(木) 04:39:00

ありす「あ、返して下さい。返して下さい。文香さんやフレデリカさんに……嫌われちゃうよぉ……」

美城「いや、だから! 泣くな。誤解されるだろう」ピピッ

美城『よしよし……可愛いな……育てたい』

ありす「…………」

蓮実「…………」

美城「……えっ!?」ピピッ

美城『よしよし……可愛いな……育てたい』

美城「うっ!? しまった。再生ボタンをっ!?」ピピッ

美城『よしよし……可愛いな……育てたい』

美城『よしよし……可愛いな……育てたい』

美城『よしよし……可愛いな……育てたい』

ありす「…………」(蒼白)

蓮実「…………」(ドン引き)

美城「ち、違う! 誤解だっ! これはこの橘に対して言ったセリフではなく、別の場面で仁奈ちゃんにだな……!」

ありす「仁奈……ちゃん?」

蓮実「なるほど、仁奈ちゃんにも……」ピッピッピッ

美城「おい。通報はやめろっ! 話を聞け! やめて下さいっ! 聞いて下さい、お願いしますっ!!」

蓮実「ペッパー警部に連絡しなきゃ」

ありす「申し訳程度の昭和ネタっ!?」

美城「急にどうした橘っ!?」

蓮実「あ。もしもし。警察ですか?」

美城「って! あああああああああああっ!?」


64   2016/12/15(木) 04:39:22

※ ※ ※ ※ ※

数日後

美城プロダクション 本社本棟前にて

警備員「おや。こんにちは、仁奈ちゃん。また探検かい? 敷地の外に出ちゃダメだよ」

市原仁奈「はい! でねーです」

警備員「いつもお疲れ様」

仁奈「お疲れ様でごぜーます!」
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65   2016/12/15(木) 04:39:43

※ ※ ※ ※ ※

美城プロダクション社内 専務個室

部下A「では次の橘ありすの新しい冠番組での衣装は、魔法少女風、コックさんコスチュームということで……」

部下B「調理のアシスタントと試食には毎回異なる衣装の市原仁奈を起用……と」

部下C「素晴らしいアイディアです。私が橘ありすに用意した案、スク水に白衣、スク水にランドルセルも悪くはないと思ったのですが……」

美城「ああ。それは夏の特番にでも採用しよう。確かに素晴らしいアイディアだ」

部下C「ありがとうございます」

部下A「ではプランはその方向で」

美城「ああ。任せる。頼りにしているぞ」

部下A・B・C「はい。それでは……失礼します」

ガチャ バタン

美城「……ふぅ」


66   2016/12/15(木) 04:40:23

あのアイドル達との鬼ごっこ騒動から数日が経った。

散々な目にあった気がするが、実は結果だけを見ると……そう悪くは転ばなかったような気もする。

まず何より、あの後、あの騒動が警察沙汰にはならずに済んだ、というのが大きいだろう。
あの長富蓮実の電話はあくまで私を橘から離れさせる為の演技であり、実際にはかけるフリをしていただけだったそうだ。

彼女いわく
「暴漢に少女が襲われている時の『お巡りさーん。こっちでーす』は古き良きお約束です」
とのことだ。

……いや、誰が暴漢か。

その次に大きな点。それは先ほどのように、部下達と意見を交わす機会が増えたという事だ。

以前までは意見の交換があったとしても、どこか一歩引いた様子で……遠慮や距離を感じるものばかりであった。
それでは本当に実りのあるやりとり、良い結果に繋がる議論はできない。
胸襟を開き、本音でぶつかり合えるようになったのは、私にとっても、このプロジェクトや会社にとっても大きな前進だろう。

いや、なぜこうなったのか、なぜ一部の部下に慕われるようになったのか、理由はイマイチよく分からないのだが。

美城「スク水にランドセルか……ふむ。スク水に靴下も捨てがたいな……」

ともあれ、ここ数日、視野が広がり、新しい道が開拓できつつあるような気がする。

自分自身の成長を感じ取れるというのは存外心地よいものだ。

うむ。素晴らしい。

なぜか佐々木千枝を始めとした年少組からは遠巻きにされてしまったり、橘ありすからは事あるごとに白い目で見られたり、
櫻井桃華に至っては、近づいただけで背後に控えている黒服が懐に手を入れて身構えるようになってしまったが……
まぁ、それは些細な事であろう。

美城「そういえば最近、渋谷凛や三船美優、森久保乃々の私を見る目が、妙に優しく生暖かい気もする……」

美城「…………」

美城「……自意識過剰だな」

美城(先日会った島村卯月には、なぜか勝ち誇ったようなドヤ顔をされたような気もするが……まぁ、それも気のせいだろう)


67   2016/12/15(木) 04:41:00

視線を上げ、壁掛け時計を見遣る。

美城「12時……か」

美城「そろそろ昼食の時間だな。外に何かを食べに行くのも良いが……面倒だな。昼は出前で適当に済ませるか……」

美城「…………」

美城(そういえば、あの日の経緯を、自称探偵アイドルが捜査員を名乗り、嗅ぎ回ったりもしているようだが……まぁ、彼女の能力的に放置しておいても全く問題はあるまい)

美城「昼は適当に済ませるとして、問題は夕食……だな」

実は今晩、件のプロデューサーとまた一緒に酒を呑む約束をしているのだ。

別に市原仁奈に仲良くしろと言われたから……と言うわけではない。
ただ、日々目覚ましい活躍を見せる彼を見て、上司として労ってやろう、そう考えただけだ。

……決して久々に彼と呑めることを楽しみになんかもしてない。

美城(確か彼はアルコールの類はあまり好まないのか、「私、未成年ですので……」などと、らしくない冗談を口にしながら、いつもサイドメニューを大量に平らげていたな)

美城「ふむ……」

美城(ならば料理の美味い店を調べておくべきか……)

そう思い当たった私は、偶然本屋で買ってあった数冊のグルメ本を取り出し、今晩の予定を立て始める。

美城(む。ここの料理は美味そうだ。ここも悪くない。うーむ。
しかし、一口に料理といっても、揚げ物、生もの、肉料理に鍋、温野菜専門店なんてものもあるのか……)

美城(どこが良いのか。選択肢が多いのはありがたいのだが、これはこれで迷うものだ)

美城(ああ、そういえば……)

美城「彼はハンバーグが好物だったな……」

フレデリカ「ぶふっ!?」

美城「!?」


68   2016/12/15(木) 04:41:28

フレデリカ「…………」

美城「…………」

フレデリカ「…………」

美城「…………」

フレデリカ「…………」

美城「いつからいた? というか、何をしに来た?」

フレデリカ「うーんとね? 入ってきたのはついさっきなんだけど……。
あ。ノックはちゃんとしたよー? 何かに夢中だったみたいで気がつかなかったっぽいけどー♪」

美城「そ、そうか……」

フレデリカ「何しに来たかって言うとー? なんていうかー。この前は悪ノリしてごめんねー?って謝ろうかと思ってきたんだけどー?」

美城「ごめんなさい、だろう」

フレデリカ「ごめんなさい」

美城「ふむ……まぁいい。それはもう気にするな」

美城(それよりもこっちが気になるのは……)

美城「その手に持っている……」

フレデリカ「…………」ピピッ

美城『彼はハンバーグが好物だったな……』

美城「…………」

フレデリカ「…………」

美城「…………」

フレデリカ「…………」ピピッ

美城『彼はハンバーグが好物だったな……』

美城「そ、そのスマホをこっちに……」


69   2016/12/15(木) 04:41:53

フレデリカ「『彼』って……」

美城「ちょっと待て……」

フレデリカ「ウキウキで情報誌を眺めながら、にやにやと頬を染めて、このセリフ……鋼鉄の女、美城専務に熱愛疑惑ー?」

美城「いや、それはそういう意味の『彼』ではなくてだな……!」

フレデリカ「…………」ジリ

美城「……待て。動くな。その場を動くなよ……!」

フレデリカ「…………」ダッ!

美城「いや、待て逃げるなっ、宮本ォ!!」

※ ※ ※ ※ ※


70   2016/12/15(木) 04:42:30

ガシャーン バターン   フギャー

大槻唯「ちょっとちょっとちょっと!? なにこれ、なにこれ? なんなのさー、フレちゃーん!!」

美城「逃げるなァァァッ!! オオツキィィィィッッッ!!」

唯「きゃーっ!?」

加蓮『あーあ。またやってる……』

奈緒「加蓮。どうでもいいけど、昼休みにいつも、その状態で出歩くのはやめてくれよ」

凛「ああ、休憩室の加蓮が白目剥いて動かない思ったら、またそこに『いる』んだ?」

加蓮『結構便利でねー』

奈緒「なんであたしには見えるんだろうな……」

※ ※ ※ ※ ※


71   2016/12/15(木) 04:43:01




72   2016/12/15(木) 04:43:22

美城プロダクション 正門前にて

「美…城。あら〜? ここがあの有名な346プロダクションなのね〜」

「お仕事で961プロにお邪魔するはずが、いつの間にかこんな所に来てしまったわ〜」

「う〜ん。どうしましょう……」

仁奈「おねーさん! おねーさんも迷子でごぜーますかー?」

「あらあら? うふふ。可愛いコアラさん。あなたも迷子?」

仁奈「迷子の気持ちになるですよ!」

「やっぱりそうなのね〜。あなたはどこに行きたいの?」

仁奈「あそこでごぜーます!」

「あの一番大きな建物? 見えてるのに?」

仁奈「目的地がちゃんと見えているからって、迷子にならねーとはかぎらねーのです」

「ああ〜確かにそうね〜。よくあるわ〜。うんうん。よし。じゃあ、お姉さんに任せなさい」

仁奈「う? あそこに連れて行ってくれやがるですか?」

「ええ。手をつなぎましょうね〜」

仁奈「おねげーします! おねーさんはとてもいい人でごぜーます!」

「さぁ、れっつごー!」

仁奈「う? ……う? そっちはシキチの外でごぜーますよ? お、おねーさん!? どこに行きやがりますか? なぜバスの列に並びやがるですか? あ、あの……!」

「お姉さんに任せておいたら平気よ〜。今日はとっても調子がいい気がするの〜」

仁奈「お、おねーさん? おねーさん? おねーさんっ!?」

※ ※ ※ ※ ※


73   2016/12/15(木) 04:43:48

その後、2日間に渡って行方不明となった仁奈ちゃんは、なぜか、北海道、日本の最北端 宗谷岬にて、一人でお芋を食べている所を保護されることとなる。

仁奈ちゃんいわく
「蟹を見ていたら、おねーさんとはぐれてしまいました。おねーさんが心配でごぜーます」
とのことで、
何があったのか、どうやってそこに辿り着いたのか、そして、そのお姉さんが何者であったのかは、ようとして知れない。

追記:
一連の事件の後、市原仁奈ファンクラブのキリ番と、新設された長富蓮実ファンクラブ会員No.00002番に美城専務の名前が刻まれたが、そこに職権乱用はなかったと、専務本人は否定している。

なお、No.00001番は長富蓮実が実家の母親に提供したとのことである。

以上
事件概要まとめ
名探偵アイドル 安斎都


74   2016/12/15(木) 04:44:21




75   2016/12/15(木) 04:44:29

安斎都「イヴ・サンタクロースと岡崎泰葉の同棲疑惑については、別途、追って報告をさせていただきたいと思います」

P「……いえ、アイドルの仕事をして下さい」


おしまい。


76   2016/12/15(木) 04:44:52

アニメ見返したら、あの部門はそこまで敷地広くなさそうでした。
大学のキャンパスくらいあるイメージだったんですが、せいぜい市役所くらい?

色々失礼しました。


引用元:http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1481742140/