1 2017/09/17(日) 10:23:10
悩んでいる。このところ、なにをどうしても心が振るわない。
なにをしていてもどこか宙ぶらりんとしている。
コンビニで週刊誌を買って、毎週楽しみにしている連載を数ページ捲って、その内容が頭に入ってこない。
それっぽく流し読みをして、適当な場所へ放ってしまう。
何か月か前に見つけて以来、気に入って通っていた気の利いたホットドッグが食べられるコーヒースタンド。
そこのチーズドッグを一口齧って、それで満足してしまう。
メチャクチャに旨いんだけど、なんというか、それ以上気が向かない。
なにをしていてもどこか宙ぶらりんとしている。
コンビニで週刊誌を買って、毎週楽しみにしている連載を数ページ捲って、その内容が頭に入ってこない。
それっぽく流し読みをして、適当な場所へ放ってしまう。
何か月か前に見つけて以来、気に入って通っていた気の利いたホットドッグが食べられるコーヒースタンド。
そこのチーズドッグを一口齧って、それで満足してしまう。
メチャクチャに旨いんだけど、なんというか、それ以上気が向かない。
2 2017/09/17(日) 10:24:09
「つまり、今みたいな状況ってワケか」
テーブルを挟んで座っている涼が、アタシと食べかけのチーズドッグとを見比べている。
「まあな」
「珍しいこともあるもんだ。夏樹もおセンチになるとはね」
「本当にな。もしかすると、ちょっと長めのアレなのかもしれねぇ。まあ、そんなんは勘弁だけどな」
アタシが口元だけニヤっとさせると、涼はその切れ長の目をいっそう細くして、人差し指でテーブルの端を軽く二回叩いた。
食事の席だ、と言いたいのだろう。変にマナーにうるさいのは、涼の育ちの良さが故だ。
アタシは悪かった、のつもりで手をひらひらと揺らした。
「一言で表すとだな、楽しくない。楽しくないんだよ」
「ふーん…」
「よぉ、けっこうマジに悩んでんだ」
涼はゆっくりとコーヒーカップに手を伸ばした。
アタシもそれにつられるように、一口含む。
すっかり冷めてしまっているが、切れの良い苦みはしっかりと残っている。
テーブルを挟んで座っている涼が、アタシと食べかけのチーズドッグとを見比べている。
「まあな」
「珍しいこともあるもんだ。夏樹もおセンチになるとはね」
「本当にな。もしかすると、ちょっと長めのアレなのかもしれねぇ。まあ、そんなんは勘弁だけどな」
アタシが口元だけニヤっとさせると、涼はその切れ長の目をいっそう細くして、人差し指でテーブルの端を軽く二回叩いた。
食事の席だ、と言いたいのだろう。変にマナーにうるさいのは、涼の育ちの良さが故だ。
アタシは悪かった、のつもりで手をひらひらと揺らした。
「一言で表すとだな、楽しくない。楽しくないんだよ」
「ふーん…」
「よぉ、けっこうマジに悩んでんだ」
涼はゆっくりとコーヒーカップに手を伸ばした。
アタシもそれにつられるように、一口含む。
すっかり冷めてしまっているが、切れの良い苦みはしっかりと残っている。
4 2017/09/17(日) 10:25:26
「ギターのほうだって、調子が悪ぃんだ。この後のレコーディングも、正直な話、不安だ」
そう、これも悩みの種だ。
楽しくない、の影響が仕事にまで浸食しつつある。
「だりーも参加するんだ。かっこ悪ぃとこは見せらんねぇだろ」
すると涼は、良く通る声で笑い始めた。
「あははははは!」
突然の笑声に呆気にとられる。なにが可笑しい。
次第に、沸々と怒りが込み上げてくる。
「よぉ、こっちは真剣に……」
思わず身を乗り出す……よりも先に、涼の背中越しに見える女子高生らしき三人組の視線が目に入った。
羨望と疑惑と困惑とが混ざり合ったその六つの瞳は、真っすぐにこちらを見据えている。
「ああ、もう……バレた、出るぞ」
「くくっ……あいよ、チーズドッグはどうする」
適当に包んでいくよ、と言って、テーブルに備え付けられていた紙ナプキンを二、三枚抜き取り、チーズドッグに軽く巻いて外に出た。
そう、これも悩みの種だ。
楽しくない、の影響が仕事にまで浸食しつつある。
「だりーも参加するんだ。かっこ悪ぃとこは見せらんねぇだろ」
すると涼は、良く通る声で笑い始めた。
「あははははは!」
突然の笑声に呆気にとられる。なにが可笑しい。
次第に、沸々と怒りが込み上げてくる。
「よぉ、こっちは真剣に……」
思わず身を乗り出す……よりも先に、涼の背中越しに見える女子高生らしき三人組の視線が目に入った。
羨望と疑惑と困惑とが混ざり合ったその六つの瞳は、真っすぐにこちらを見据えている。
「ああ、もう……バレた、出るぞ」
「くくっ……あいよ、チーズドッグはどうする」
適当に包んでいくよ、と言って、テーブルに備え付けられていた紙ナプキンを二、三枚抜き取り、チーズドッグに軽く巻いて外に出た。
5 2017/09/17(日) 10:26:49
店の外は、休日ということもあって、それなりに人で溢れている。
時計を見ると、レコーディングの開始時間まで、ぼちぼちといったところ。
スタジオもここからそう離れたところではないので、このまま歩いて向かうことにした。
持ってきたはいいものの、やっぱりこれ以上、食べる気にならないチーズドッグを手の内で遊ばせていると、涼が今だニヤケの残った顔でのぞき込んできた。
「さっきのことだけどサ、悪かったよ。突然、笑ったりしてな」
「ああ、いったいどうしたかと思ったぜ」
「まあ、なに。心配すんな。すぐに楽しくなってくるさ」
近いうちにな、と言って涼は含むような笑みを見せた。
アタシはその意味がさっぱり分からず、なんとも楽しくない。自然と溜息が漏れる。
くそっ、なんなんだ……、面白くねぇ!
―――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
―――
時計を見ると、レコーディングの開始時間まで、ぼちぼちといったところ。
スタジオもここからそう離れたところではないので、このまま歩いて向かうことにした。
持ってきたはいいものの、やっぱりこれ以上、食べる気にならないチーズドッグを手の内で遊ばせていると、涼が今だニヤケの残った顔でのぞき込んできた。
「さっきのことだけどサ、悪かったよ。突然、笑ったりしてな」
「ああ、いったいどうしたかと思ったぜ」
「まあ、なに。心配すんな。すぐに楽しくなってくるさ」
近いうちにな、と言って涼は含むような笑みを見せた。
アタシはその意味がさっぱり分からず、なんとも楽しくない。自然と溜息が漏れる。
くそっ、なんなんだ……、面白くねぇ!
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6 2017/09/17(日) 10:27:52
しばらく歩いて、雑居ビルの立ち並ぶエリアにたどり着いた。
ビルの間にぽっかりと空いた地下へと続く階段を降り、扉を開けると、プロデューサーとだりーが待合ロビーに置かれたベンチに並んで座っていた。
だりーはアタシの顔を見るなり、まるで母親を見つけた子犬のように駆け寄ってきて、その眩しい笑顔を輝かせた。
「久しぶりだね、なつきち!三週間ぶりくらいかな。涼も元気だった?」
「ああ、久しぶり。海外ロケはどうだったよ」
「楽しかったよ~!お土産もあるから、あとで渡すね。あ、なにそれ。ホットドッグ?」
あんまりにも食いついてくるので、チーズドッグを渡してやると、だりーは一息のうちに口に放り込んだ。
そのあまりにも無邪気に動く頬を見て、思わず吹き出す。
「もっ?ひょっほ、なふひひ、わらはなひへほ~!」
「あはは!なに言ってるかわかんねぇよ」
海外帰りといえど、だりーはだりーなのであった。
ビルの間にぽっかりと空いた地下へと続く階段を降り、扉を開けると、プロデューサーとだりーが待合ロビーに置かれたベンチに並んで座っていた。
だりーはアタシの顔を見るなり、まるで母親を見つけた子犬のように駆け寄ってきて、その眩しい笑顔を輝かせた。
「久しぶりだね、なつきち!三週間ぶりくらいかな。涼も元気だった?」
「ああ、久しぶり。海外ロケはどうだったよ」
「楽しかったよ~!お土産もあるから、あとで渡すね。あ、なにそれ。ホットドッグ?」
あんまりにも食いついてくるので、チーズドッグを渡してやると、だりーは一息のうちに口に放り込んだ。
そのあまりにも無邪気に動く頬を見て、思わず吹き出す。
「もっ?ひょっほ、なふひひ、わらはなひへほ~!」
「あはは!なに言ってるかわかんねぇよ」
海外帰りといえど、だりーはだりーなのであった。
7 2017/09/17(日) 10:28:16
談笑もそこそこ、プロデューサーに促され、レコーディングルームへ。
緊張しながら、ギターを一掻きすると……。
「……あれ?」
いつも通りの音。だが、良く響いている。気持ちのいい伸び。楽しい時の音だ。
思わず涼の方に目をやると、さっきと同じようなニヤケた顔をしながら、いいじゃん、と言った。
「言っただろ?近いうちに楽しくなってくるって」
「ああ、良い感じだ……」
なんでだろう、不思議なこともあるもんだ、というと、涼はニヤケ面を一気に強張らせ、アタシを見つめた。
「なんでだろう?わかんねぇの?」
なぜ、キレられてるのだろう。なにも理解できないまま素直に、わからん、と伝えると、涼は深い深い溜息をついて、
「トンチキなこと言ってると、そのうち痛い目にあうぞ」
と言って右肩を人差し指で強めに突いてきた。
アタシは首を捻りつつ、この心に沸き溢れる“楽しい”という感覚が消えないようにと、ギィィィンと弦を弾いた。
緊張しながら、ギターを一掻きすると……。
「……あれ?」
いつも通りの音。だが、良く響いている。気持ちのいい伸び。楽しい時の音だ。
思わず涼の方に目をやると、さっきと同じようなニヤケた顔をしながら、いいじゃん、と言った。
「言っただろ?近いうちに楽しくなってくるって」
「ああ、良い感じだ……」
なんでだろう、不思議なこともあるもんだ、というと、涼はニヤケ面を一気に強張らせ、アタシを見つめた。
「なんでだろう?わかんねぇの?」
なぜ、キレられてるのだろう。なにも理解できないまま素直に、わからん、と伝えると、涼は深い深い溜息をついて、
「トンチキなこと言ってると、そのうち痛い目にあうぞ」
と言って右肩を人差し指で強めに突いてきた。
アタシは首を捻りつつ、この心に沸き溢れる“楽しい”という感覚が消えないようにと、ギィィィンと弦を弾いた。
引用元:http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1505611390/