2017/12/28(木) 21:44:57

12月25日(月曜) 晴れときどきくもり
今日はクリスマス。 春香さんにお昼からお願いして、一緒に作ったケーキは、はじめてなのに本物みたいにできて、うれしかった。
ケーキは机においておくとダメになるから、お兄ちゃんがシアターに帰ってくるのを窓から見張ってた。
こっちにくるお兄ちゃんを発見してから、冷蔵庫から取り出して、また入り口にもどるときに、いそがなきゃいけない。
けど、はしると形が崩れちゃうかもしれないから、早歩きをしなきゃいけなくて、気ばっかりあせってぜんぜん前に進まないのがもどかしかった。



  2017/12/28(木) 21:45:23

一日ぶりに顔を合わせたお兄ちゃんは、スーツにシワができてて、くたくたに疲れてるみたいだった。
約束の時間より遅れたことを叱ろうとしてたのに、それをみたら、追求する気持ちがうせちゃった。
それは、なんだか桃子のほうが子供っぽいような気がしたから、だったのかな、と、今になっておもうけど、
その時の私はなんでもいいから別の理由でお兄ちゃんが悪いことにして謝らせたことを覚えてる。


  2017/12/28(木) 21:45:51

からだの後ろにかくしていたケーキは、ちゃんとわたせた。それはよかった。
でも、いま桃子を困らせてる原因は、お兄ちゃんがかばんから取り出したプレゼントの中身だよね。
ところで、桃子もこの世界が長いから、大人が渡してくるプレゼントがどういうものか、だいたいはけんとうがつく。
よくあるのが、子供向けアニメのオモチャ。
サンタクロースが袋から出すといえばこういうもの、というイメージがあるのはわかるけど、桃子はもうそういうのは卒業したんだよね。
もうひとつ多いのはその逆で、桃子が背伸びしたいんだと思ってて、大人っぽいプレゼントをくれるひと。
その気持ちはありがたいんだけど、さすがに香水をもらったときは困ったよね。 
だって、桃子は子役だよ?そんなの普段づかいしようものなら、周りの大人にナマイキだ、って思われちゃう。
それでも桃子はね、大人だよね。 
「いらない」なんて気持ちはちょこっとも顔に出さず、「ありがとうございます、大切にします」って言えるんだから。
だからその辺の人よりも、「もったいないプレゼント」に対して慣れてる自信はあったんだ。 
なのに、それをラクラク下回ってくれるんだから、お兄ちゃんはホントどーしようもないって思ったよね。 
そもそもお兄ちゃんより桃子のほうがこの世界ながいんだから、そんな気づかいはべつにしなくていいんだけど。
それでもあのときの桃子はチョ~ぶすな顔で「えええ~っ」って言っちゃった。さすがに、あの顔は見せたくなかったな。


  2017/12/28(木) 21:46:10

だいたいお兄ちゃんがぜんぶわるいと思う。
まず、プレゼントっぽくない。 これ、日用品とか、筆記ぐとか、そういうジャンルのものだ。 ぜんぜん特別な日なかんじがしない。
それに、こんなこと書きたくないんだけど、安い。 
べつに高かったらうれしいわけじゃないけど、それでもなんか、桃子に対してテキトーにしてもいいみたいに思われるのは、絶対ヤだ。
だから桃子はそこからずっと、顔も見たくなくてそっぽ向いて、お兄ちゃんの話をへーとかふーんとか返しながら聞いてた。


  2017/12/28(木) 21:46:34

…まあ、話をよくよく聞いてみれば、まあまあ悪くないプレゼントなんだよね。 
中身はこれだけじゃなくて、包装箱の中にもうひとつ、意外なものが入ってたし。
それに「コレ」だって、カワイくて、大人っぽさもあるデザインで、とても使いたくなる。 
こういうのって、ショッピング中にイイなと思っても、大きさが桃子の手のサイズにぴったりくるのって、なかなかみつからない気がする。
…うん、やっぱりこれはお気に入りだ。 こうして使っていても、開けたり閉じたりして、カバーの手触りが指を楽しませてくれる。


  2017/12/28(木) 21:46:50

そう、今。私がこの文を書きこんでいる日記帳こそが、お兄ちゃんのプレゼントだ。


  2017/12/28(木) 21:47:12

ここからのことは、さすがに日記でも書かないでおこうかと思った。 
だけど、やっぱり思い直して、あのときの会話を、ここに残しておこう、と、おもう。


  2017/12/28(木) 21:47:35

プレゼントが気に入らない理由として、桃子は言った。日記なんて自分からつけたことないし、夏休みの宿題でやらされてキライになったよ。
そしたらお兄ちゃんに、嫌いって、どうして?と聞かれたから、こう答えた。
だって、宿題やんなきゃ先生怒るんだもん。毎日むりして書くこと考えなきゃいけないの大変なんだよ。
あと、お仕事関係の書いちゃいけないことが入ってないかとか…いろいろ…気をつけたり、すごく疲れるんだもん。みんな、勝手だよ。…って。
http://u111u.info/jT66

10   2017/12/28(木) 21:47:47

いろいろ、というのは、お母さんのことだ。 
お母さんはよく、桃子はそこらへんの子と違って、まだ公開されてないお仕事の内容をうっかりいっちゃうといけないから、
家の外の人と話す前にお母さんに聞いてから答えなさいって言う。 そのときのお母さんの顔は、なんだかこわい。
と、いったことを、言わずに「いろいろ」ですませたのは、だってお兄ちゃんも家の外の人だから。


13   2017/12/28(木) 23:29:46

これはお兄ちゃんのせいじゃない。 
お兄ちゃんは頼りないけど、頼っちゃいけない人、というわけではないとは思う。 


14   2017/12/28(木) 23:30:26

アイドルデビューしてからこれまで、もう結構な時間が経った。 
それを通じて思ったけど、桃子の知らない裏ワザを教えてくれたり、桃子の言いたいことをわかってくれたりするのがとっても良いところだとおもう。
それに他のアイドルや、お仕事関係の人たちからも、評判がいいみたい。



15   2017/12/28(木) 23:31:08

…でも、おうちのことは、言っちゃいけないと思う。
これは、業界のルールとか、人の好き嫌いの問題じゃなくて、…それをしてしまったら、お母さんの立場はどうなっちゃうの?
ということを考えて、こわくなる。 
お母さんには桃子しかいないのに、桃子がお母さん以外のひととひみつをしたら、それは裏切りだ。 お母さんが泣くことになるのは、もういやだ。
そんなことを思いながら、お兄ちゃんの返事を待つ。


16   2017/12/28(木) 23:33:24



お兄ちゃんは、「ん……」としばらくかんがえたあと、「なるほど、そういうことなら桃子は悪くないな。」 ってはっきり言ってくれた。 
桃子は自分が悪くないって知ってたけど、でも自分以外のひとにそう言ってもらえて、やっぱり少し安心する。


17   2017/12/28(木) 23:33:54

それからお兄ちゃんは天井をみながら、遠くを見るようにしながら、こうつぶやいた。
「といっても、先生も桃子を苦しめるためにいるんじゃないし、……きっと誰が悪いわけでもない。」 
誰も悪くない。 …つまり、お母さんも悪くない。 お母さんにキツイ言い方をするお父さんも悪くない? 
それで桃子も悪くないんだったら、今をどうにかするために、桃子はどうすればいいか、もうわかんないよ。


18   2017/12/28(木) 23:34:19

そこからお兄ちゃんは、桃子にわかりやすいように、ゆっくり時間をかけて聞かせた。 おおよそ、こんなことを言っていたとおもう。
桃子がイヤだなって思ったことは、桃子の中に残したままにすると、色んな悪さをするんだ、って。 
そのとき感じたよりもどんどん大きくなって、思い出すたびに怯えることになったりする。 
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19   2017/12/28(木) 23:34:45

それに、そのことについて悩んでない他の人を見ると、自分ばっかり損して他の人はずるいって思って、大事に思えなくなったりして。
それはみんながみんなそうってわけじゃなくて、人によって感じ方は変わるけど、お兄ちゃんは自分がそうなったとき、そういう感情はほっとかないことにしてるんだって。


20   2017/12/28(木) 23:35:11

だから、日記に書くんだって。イヤなことは日記に一旦預ける。 
思いついたことを思ったままに書いたらいい、仕事のことでもいい、書きたくない日は書かないでいい。 
日記は、誰かに見せるために書かないんだって。


21   2017/12/28(木) 23:35:29

桃子は、そんなのただの書き捨てじゃん。って言った。 誰にも見られない日記は、なんのためにあるのかが、わからない。
役者だって、たとえ最高の表現をしても、見せる相手がいないなら意味がないんだから。


22   2017/12/28(木) 23:35:53

そしたらお兄ちゃんがこう言ってた。
書き捨てるんじゃなくて、これはいずれ自分に読んでもらうために書くんだ。 
明日とか、来年の自分に。 それで、いまの俺はこんなだけど、そっちの俺はどう?って、手紙を送るみたいに。
そうすると、昔の自分がムチャクチャに悪口を書いてるのを見て、自分がちょっと熱くなりすぎてたなってことがわかったりする、って。


23   2017/12/28(木) 23:36:33

そこまで聞いて、桃子は日記というものが、なんだかモヤモヤとよくわからない不気味なものに思えた。
だって、ふとしたときに開いたら、他の誰でもない、自分が一番気にしているいやなことがたくさん書いてある日記でしょ?


24   2017/12/28(木) 23:36:54

そんなの読み返すのは、自分が自分で思ってるより希望がないことを思い知らされちゃうんじゃないの。
そのことをお兄ちゃんに言うとき、いつもみたいには目を見れなかった。 
お兄ちゃんも、そうか、と一言だけつぶやいて、何も言えなくなっていた。


25   2017/12/28(木) 23:37:28

だけどそのあと、お兄ちゃんが、思いついた…というか、思い出したような、頭の上から「ティン」と音が聞こえてきそうな顔をした。
身を乗り出してきて、そうだ、プレゼントはこれだけじゃないんだぞ、箱の底を見てみろと言ってきた。
確かに日記の下を探してみると、何かの入場チケットのようなものが入っていた。
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26   2017/12/28(木) 23:38:15


「今度休みを取って、一緒に行こう。 楽しいこと、探そう。 俺も楽しいこと探しを手伝う。
 世界には桃子の知らない楽しいことが、た~っくさんあるんだぞ。 
 それで、日記にイヤなこと10個書いても、楽しいことが20個書いてあったら、差し引き10プラス、だろ?
 それならきっと、見返すのが怖くなったりなんかしない。」
そう言うお兄ちゃんの顔は本当に楽しみにしてるみたいで、つられてこっちまで楽しみみたいな気持ちになってきた。


27   2017/12/28(木) 23:39:11


「…このチケットだけで、20個も楽しいこと見つかるの?」
「誰が1回きりって言った?この先も桃子のプロデューサーやってくんだ、何回でも時間をつくって遊ぼうじゃないか。 イヤか?」
「…イヤじゃないけど。」
イヤなわけがない。 もし、この先桃子の人生が、プラス10になっていくのならなんて、考えただけでもワクワクしてくる。


28   2017/12/28(木) 23:40:11


でも、そんな甘えちゃっていいのかなって、ホントに期待してもいいのかなって、心がソワソワする。


29   2017/12/28(木) 23:40:51



だいたい、お兄ちゃんはコトの大きさをわかってるのかな。
この日記は包装をあけたばかりで、まだまだ真っ白なページだらけ。 
宿題と違って提出日はないけど、そのぶん、自分でやる気を出さないといけないっていう、また別の大変さがある。


30   2017/12/28(木) 23:41:23

しょうがないお兄ちゃんのプレゼントを、「もらったけど真っ白しろけのもったいないプレゼント」にしないためには、
桃子がぜんぶうめていかなきゃいけないんだよ? 桃子の時間をどれだけ取るのか、とほうにくれそう。
ほんと、プロの桃子がこんなお仕事受けるのは、特別の特別なんだからね……桃子の大事なプロデューサーの、お兄ちゃん!


31   2017/12/28(木) 23:46:45

以上で終りです。
途中からエラーがでて止まってしまいました。
感想、キャラ考察などありましたらよろしくお願いします。


33   2017/12/28(木) 23:58:00





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引用元:http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1514464396/